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花言葉ものがたりより「石楠花」
僕の父さんは腕のいい庭師だった。
柘植の木を使って、格好の良い鶴や亀をこしらえた。あれは、ちょっとでもバランスが悪いと、途端に滑稽な代物になってしまう。
町で一番大きな高槻様のお屋敷の庭も、父が任されていた。
高槻様のお庭には「絶対入ってはいけない場所」があって、そこは背の高い石楠花に覆われていた。
けれども幼い頃の僕は、そんなことにはお構い無しで、父の手伝いの合間を縫っては石楠花の木をくぐり抜け、幾度となく禁断の庭に潜り込んだものだ。
「留吉。待っていたぞ」
石楠花の檻の中で、少女はにっこりと僕を出迎えてくれた。
彼女はちょこちょこと僕の側までやってくると「さあ、今日は何をして遊ぶのだ」瞳を輝かせた。
だから僕は、お手玉だの、独楽だのを着物に忍ばせて、彼女のもとへと足繁く通った。
あれは、戦争の始まる前のことだった。
今ではもう高槻様のお屋敷はもぬけの殻となり、手入れのされない庭は雑草が生い茂っているのだという。
荒れ果てた庭で、彼女は今でも誰かを……僕を……待っているだろうか?
 





