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クロゼットフリーク俺

こちらの作品は「【習作】描写力アップを目指そう企画」のなかの「第六回 キラキラ☆ワードローブ企画(2018.11.24正午〆)」参加作品です。


今回はただただ趣味に走って楽しく書かせていただきました……ということで得意の?「微BL」です。

苦手な方はスルーして下さいませ。


 由里子と俺は、秘密のクローゼットを持っている。


 黒をメインに純白、真紅。

 ヘッドドレスに袖留、ビスチェ。ドロワースにふんわりパニエ。


「似合う。めっちゃかわいい」


 由里子はうっとりと手を組み、ハートマークが飛び散りそうな声で言った。


「……そうかな」


 姿見の前でくるりとひとまわりする。

 フリッフリの黒いミニスカート。オープンショルダーのトップスの胸元にもフリルとリボン。シンプルな袖にはフリルとチャームの付いた袖留を。

 この、ちょっぴり辛めなゴスロリファッションを着こなすのは姉の由里子ではなく、俺だ。


「今回のテーマは、フリルとブラック。ラブリーとクールのアンビバレントな危うさよ。もう、ミチったら、めっちゃ似合う!」


 そう言われて、悪い気はしない。

 フリルの付いた黒のニーハイソックスを履きながら鏡を覗き込んでいると、由里子が靴底何センチだ!? ってくらいのプラットフォームシューズを取り出してきた。


「え? 靴も履くの? ウチん中で?」


 たじろぐ俺に、悪魔の笑顔を浮かべながら由里子は言った。


「ねぇミチ? 今日は土曜日よ。一緒に街を歩いてみない?」

「え!?」

「ミチが歩いたらさあ、男なんてイチコロよぉ」

「いやいや、俺、男だよ? 男にモテるために女装してんじゃないもん! 可愛い服が好きなだけの素人だもん! ムリムリムリムリ!」


 と言ったのに。

 今日の由里子は頑固だった。

 だいたい俺は由里子と言い争いをして勝った試しがない。


 なに言ってるのよ。私よりかわいいくせに。

 姉の言うことが聞けないの?

 あんたには、ささやかな姉の願いを叶えてやろうっていう優しさがないの?

 ねぇ、ミチは優しい子だよね? お姉ちゃん知ってるもん。

 だって、ミチめちゃくちゃ可愛いんだもん。

 お姉ちゃん、可愛いミチと一緒に歩いてみたいんだもん。


 や……やめてくれ……。俺、褒め言葉に弱いん……だ……けど……。


「やだぁ、心配しなくても大丈夫よお。あんたのこと道成だなんて見破るやつ、誰もいないって! それにちゃんと、お姉ちゃんが守ってあげるしぃ」


 由里子に引きづられ、バーへ。そこで待っていたのは、由里子の腐りきった女友だちだった。女どもはひとしきり俺をサカナに大盛り上がりしていたが、そのうち俺のことなんかそっちのけで趣味の話に夢中だ。

 俺はトイレに立つふりをして、こっそりと席を離れた。

 本当は、さっさと帰ってしまいたかったのだけど、この格好で一人街を歩くのも、なんだか怖い気がする。

 カウンターに腰を下ろすと、今までの疲れがどっと襲ってくる。

 女装自体は嫌いではないんだけど、なんだかなあ……。


「なにか、お作りしますか?」


 うなだれる俺にマスターが穏やかな口調で話しかけてきた。


「ううーん……さわやか~な気分になれるカクテルとかある?」

「かしこまりました」


 どんなカクテルが出てくるんだろう? ちょっとワクワクする。


「それ、俺が奢らせてもらってもいい?」


 いくつか席を挟んだ先に座る男が言った。


「……へ?」


 低い声に聞き覚えがある気がした。

 パチパチとつけまつげを揺らして視線を上げると、そこには知っている男の顔があった。


「ひいっ!」


 思わず息を呑む。

 だってそいつ、同じ会社の先輩だったんだもん。


「え……あの、お……わたし?」


 ちょっと頑張って高めの声を出してみる。

 だって、ここでばれるわけにはいかないじゃん! 同じ職場の奴だよ?

 俺の声を聞いた男から笑顔が消える。


 ひぃぃぃぃぃ。怖い怖い怖い怖い!


 じーっと、俺のことを見つめていたかと思ったら、目の前の男はにっこりと笑って「やっぱり」と呟いた。

 こわい、怖すぎる。

 バレてますか? バレてますよね?

 なのになんで、そんな笑顔なんですか?

 そんでもって、なんで俺の許可もなく俺の隣に座るんですか?


「マスター、俺ハイボール。あと、ここ会計一緒でいいよ」

「あのっ……そんな……」


 俺がわたわたとしていると、先輩は「名前は?」って聞いてきた。

 あれ? ばれてないのかな?


「名前、聞いても?」

「ミチ……です」


 先輩はカウンターに肘をついて、組んだ手の上に顎を載せて、俺を見ている。


「かわいいね」


 へ?


「すごくかわいい」

「へ? 先輩、ホモなの」


 と答えてから、俺はまたパニクってしまう。

 今の! 自分から告白したようなもの……。


「ホモじゃないよ。だって、ミチは今女の子じゃん?」


 俺の付けているウィッグに、先輩の指が絡まる。


「似合ってる」


 だから、そんなキラキラな瞳で俺を褒めないでほしい。

 だって俺、褒め言葉に弱いんだもんよ。



 それは、俺と先輩がお付き合いを始める、数時間前の出来事だった。



 了


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