第2章 10・爆裂系上級魔法
怒りと嫉妬に燃えるヘルツォーク二世。
ホーリーとの決戦です!
第2章 10・爆裂系上級魔法
吸血鬼ヘルツォーク二世がゆっくりと立ち上がりました。
まさに死人が如き青白い顔に、血の涙の線がくっきりと確認できます。
紅い髪に、赤い瞳、ホーリーには燃えているように見えました。
「フッ、俺の式鬼と低級な冷却系の呪文を跳ね返したくらいで、天下一を気取るか」
ヘルツォーク二世の両腕が天にかざされます。
「俺の宝を奪おうとする下賤の者め、吸血鬼王族の力を見せてくれる」
「いや、あの、この宝玉でしたら、今すぐお返しします」
ホーリーは慌てて暗黒の宝玉を大事そうに差し出しました。
「そんなものはくれてやる!俺の宝はウィン・ド・トリミング姫のことだ!!!」
「いや……でしたら、どうぞ、僕にお構いなく。お返ししますので」
「な、何?返すと云うのか?」
ヘルツォーク二世が驚いた顔で問います。
それを聞いてウィン姫の顔色がサッと変わりました。腕の抱いている子犬のナターシャもそのあまりの殺気に怯えて震えています。
「なんだと貴様、お返ししますとはどういう意味だ!!」
怒りに震えるウィン姫の声が月夜に響き渡ります。
「え、だって、それはウィン姫が自分勝手に決めて、いや、確かに僕もはっきり……答えなかったのが悪いのですが……」
【ホーリー様、ウィン姫が詠唱に入っております。爆裂系の上級魔法です。下手に跳ね返すとウィン姫の命を奪いかねません。鎧を御脱ぎください】
「え!?これ脱ぐの!?それは無理だよ」
【大丈夫です。避けられます。今のホーリー様の速さについてこられる者など、この世界にはおりません。跳ね返す方が危険です】
「なんでこうなるかなー」
愚痴をこぼしながらホーリーはガードプロテクターを脱ぎました。わずかな防御力しかない狩衣の姿に戻ります。
ウィン姫の緑の両目は瞳孔が開き、背後にはゆらゆらと陽炎のようなものが見えました。
口はブツブツと詠唱を続けています。
ドワーフのギャンが飛び火を恐れて盾で身を隠します。
「……炎の神と竜巻の神との盟約に従い、召化せよ、あらゆるものを爆裂させる爆下滅破読壊……男の二言は許さぬ!!食らえー!!!!!」
ウィン姫の背後に稲妻のような光が何本も走りました。
大気が震えています。
全員が重力をいつも以上に感じています。
【ホーリー様、来ます。ここを中心に半径1.3㎞に渡る広範囲の超爆裂です。後方では避けきれません。魔力の照射される前方のみが唯一の隙です】
(この魔法めがけて突っ込めってこと?)
【今です!!】
スマホアプリのマリエッタの叱咤を耳にし、ホーリーはがむしゃらに突っ込みます。
ウイングブーツを履いていなかったら避けることはできなかったでしょう。
ホーリーは光速でヘルツォーク二世の脇を抜け、ウィン姫の真横に辿り着きます。
恐ろしいほどの爆発音と衝撃が辺りを包み込みました。
ホーリーが振り返ると背後の平地が崖のようにえぐられていました。
凄まじい魔法の力です。
【このような人間を初めて確認しました。ウィン姫は怒りの力で魔力を10倍まで高めることが可能なようです。つまり魔力が940ということになります。この値は神や悪魔と互角に戦える高さです。どうやらウィン姫は普通の人間ではないようですね】
頭の中で感心しているマリエッタの声を無視して、ホーリーはウィン姫にパープルソードを突き付けます。今のウィン姫の魔法は確実にホーリーを殺す気で放った一撃でした。
こうなったらホーリーも手加減できません。
「フフフ、ハハハハハハハ!!そうか、なるほど。で、あればこの男の命を奪うのは後回すとしよう。先に叩くべきはキリュウ!!」
ヘルツォーク二世が急に元気を取り戻し、笑い始めました。
ウィン姫は涙ににじんだ目でホーリーを睨みつけます。
ホーリーもなぜかその涙を見て罪悪感にかられました。もっとはっきりと最初からことわっておくべきだったのです。なぜならホーリーには大切なドナという女がいるのですから。
「うっ……頭が、頭が痛い……」
割れるような頭痛がホーリーを襲います。その場にうずくまり嘔吐を繰り返しました。
「だ、大丈夫か?」
ウィン姫が急に心配そうにホーリーの傍に寄り添います。
「姫、この男との決着は後にいたします。まずはキリュウを探し出し、その首をとってきましょう。しばらくお待ちください」
そう言い残しその場を後にしようとしたヘルツォーク二世に向かい、ウィン姫は、
「この先の旅路でキリュとは落ち合うことになっている。しばらくの間、供をせぬか」
「供を……承知いたしました。陽が昇ると身を隠さねばなりませんが、夜は行動を共にできます。キリュウに会い、我が力のほどをお見せいたしましょう!」
どうやらヘルツォーク二世には、ホーリーに対する競争意識がなくなった様子でした。
こうして4人目の仲間を加え、チームワークがバラバラなパーティーが完成したのです。
ここまで毎日更新してきましたが、3日に1編くらいにペースを落とそうと思います。
今後もよろしくお願いいたします。




