第2章 7・死霊との闘い
旅は始まったばかり。そこに襲い掛かる死霊の群れ。
はたしてホーリーたちは見事に撃退できるのでしょうか。
第2章 7・死霊との闘い
月夜の下、山の木々の間を縫って、夜より黒い影がスルスルと下りてきます。
「ウィン姫、裸足の魔導士殿」
鉄の斧を構えるドワーフのギャンが先頭に立って声をかけます。
「ナターシャの初陣になるな。ここで戦闘をよく見ておくがいい」
ウィン姫は片手で抱えた子犬を下ろそうともせずに、銀の剣を構えます。子犬のナターシャは歯をむき出しにして、迫り来る影に向かって唸っていました。
ホーリーは最後尾ですが、装備は完ぺきなので、前に出るか迷っていました。
千の死霊相手にどこまでやれるか少し心配です。
「ナネット族戦闘隊長ギャンと申す。お相手いたす」
円形の鉄の盾で全身を隠すと、その頭上で鉄の斧を旋回させます。
薄い紙のような影が次々と山を下り、田園を駆け抜けて、襲ってきました。
足音一つしないのが不気味です。
ホーリーが躊躇している間に、死霊の先頭はもうギャンに急接近していました。
ギュルン!!ギュルン!!
斧を旋回させながら、ギャンが左右に飛び回ります。
回っているのは肩より上だけですが、まるで駒のような回転です。
それが四方八方に動き回り、死霊の影を切り裂いていきます。
軸はまったくぶれていません。
素材は鉄ですが、魔法をかけられている斧なのでしょう。簡単に死霊をたおしていきました。
あっという間に数十の死霊が切り裂かれて消えていきます。
ギャンに近寄る影はどんどんその回転に飲まれていくのでした。
50くらいの影が同時にギャンに襲い掛かりましたが、まったくダメージを与えることができません。斧の刃をかわした影も鉄の盾に遮られます。
わずか2分ほどでしょうか。
すでに300の死霊はギャンひとりに倒されています。
(マリエッタ、あのドワーフ、もしかして相当強いのかな?)
ホーリーがギャンの戦いぶりを唖然として見つめながら、頭の中でスマホアプリのマリエッタを呼びます。
【その通りですご主人様。あのドワーフの戦士LVは98 生命力74 体力128 攻撃力187 防御力215 速さ72 魔力0 特殊能力は毒の耐性 精神魔法の耐性を有していて、スキルは財宝の嗅覚LV36 斧術LV100 統率LV58 称号は戦士マスター 戦号は「盾風」です。究極まで鍛えられた戦士と呼んでも過言ではありません 】
(そ、そんなに強いんだ……)
道理でウィン姫が素直に話を聞くはずです。その強さを認めているからなのでしょう。
「ギャン、そこまでにしてこちらにも獲物を回すがよい」
ウィン姫がそう言って笑いました。
ギャンはその回転を止めます。足元の地面は強烈な踏み込みの痕でボコボコになっていました。
死霊たちが無防備になったギャンに襲い掛かります。
「爆穿弾!!」
ウィン姫が得意の爆裂系の呪文を唱え、ギャンに近寄る死霊を一掃しました。
右から回り込んできた300近い影が一斉にウィン姫に襲い掛かります。
月夜の下、ウィン姫は楽し気に踊るように剣を振るいます。
まるで美しい剣舞を観ているようです。
片手で抱かれているナターシャも驚いて目を丸くしています。
半数があっという間に斬り捨てられます。
「暴・獅・滅・子・刃……爆裂獅子牙斬!!」
何度か見たウィン姫の爆裂系の呪文を乗せた剣撃です。明らかに詠唱が速くなっています。それだけウィン姫もLVを上げているのでしょう。
閃光と主に残った死霊が一瞬で切り刻まれて、燃え尽きました。
凄まじい威力です。
今度は左から300の死霊が回り込んできます。
強烈な魔法剣撃を発した後なので、ウィン姫にも隙ができていました。
そこに300が押し込みます。
ギャンが慌てて援護に向かい、後方の20を鉄の斧で斬り捨てます。
残るは280。
それがウィン姫の身体に接触する瞬間、ようやくホーリーが動きました。
あまりの速さに誰もその動きを捉えられません。
280の死霊を紫の剣「パープルソード」で倒しました。
「お前たちの主人のもとへ行き、ここへ連れてこい」
ホーリーは倒した死霊たちにそう命じました。パープルソードで倒されたものはホーリーの眷属となり、その指示に従わなければならないのです。
死霊たちの影が、今度は山を上っていきます。
「さすがは言い伝えの裸足の魔導士。御見それした」
ギャンがホーリーに近寄ってきてそう言って頭を下げます。
「いえいえ、とんでもない。ギャンさんこそお強いんですね。驚きました。そんな身長で……いえ、あの、すみません」
「ハハハハ!!いや、ドワーフはこの身長をよくエルフどもに馬鹿にされますが、我々は気にもしていません。身長が高いことが必ずしも戦闘に有利とは限りませんからな。しかし裸足の魔導士の動きは凄い。こんな素早い攻撃を見たのは初めてだ」
「はあ、ありがとうございます」
そこにふてくされ気味のウィン姫がやってきて、
「貴様に援護を頼んだ覚えはない。私ひとりで残り300片付けられたものを」
と文句を言い出します。
「まあ、ウィン姫、我らはひとつのパーティー。互いに補い合ってこそパーティーは力を発揮する。よいではないか。私は裸足の魔導士の力の片鱗を見ることができて満足だ」
ギャンはそう言って笑いました。豪快な笑いです。屈託がないというのはこういう笑いをいうのでしょう。
山の奥で何か爆発するような音が響きました。
そしてまた静寂に包まれます。
ホーリーの眷属になった死霊は誰ひとり戻ってはきません。
「どうやら主役の登場だな」
ギャンがそう言って身構えます。
空間が震えるような波動を伴って、山からひとつの黒い影が飛んできました。
【LV123の不死族です。ホーリー様、お気を付けを】
黒い影は、ホーリーたちの目前で、スッと地面に着地しました。
月夜に照らされたその姿は幼い少年のものでした。
紅い髪を七三に分けたどこぞの御曹司のような少年です。服装はYシャツにネクタイ。上下ともに高貴な臭いを漂わすスーツに身を包んでいます。
「俺の式鬼を跳ね返しやがったのはどこのどいつだ!!」
見た目とは大きく異なり、口ぶりはまさに悪魔のようです。
これがウィン姫が4人目の仲間にと考えていた、「ドット・フォン・ヘルツォーク二世」だったのです。
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