第2章 3・旅の始まり
いよいよホーリーがトリミング王国国王と会見します。
はたしてどのような結論になるのでしょうか。
第2章 3・旅の始まり
トリミング王国の城、玉座の間にホーリーが通されたのは、ちょうど午前10時でした。
天井は吹き抜けで、8階までの高さがあります。柱には装飾が施され、壁には様々な肖像画が掛けられています。火を灯すジランドールの燭台はボヘミアングラスのプリズムを神秘的に照らしていました。
幅5m、長さ20mはあろう赤い絨毯が、玉座までつながっています。中央には巨大なメダイヨン。おそらくは鷲を描いた紋章でしょうか、絢爛豪華な玉座の間に強固な国の意志を印象付けるものになっていました。
敷かれた赤い絨毯から少し離れた柱の前にはそれぞれ槍を持った重装備の騎士が立っています。奥に進むほどにその数は増え、僧侶や貴族の姿も目に付くようになってきました。
ホーリーの後ろにはケリーが従います。
荘厳な雰囲気の中を二人はゆっくりと進んでいきました。
「そこでお止まり下さい」
太い声が玉座の間に響きました。立派な顎髭を蓄えた王国軍騎士団長のハンニバルです。その近くには青い長髪がトレードマークの王国軍将校ラムサスの姿もありました。その表情は冴えません。
「トリミング王国第19代国王陛下の御成りでございます」
ハンニバル将軍の言葉を聞いて全員が頭を深々と下げます。ホーリーも慌てて、それに倣いました。
国王は玉座の奥のドアを開いて現れました。
先頭には若い小姓役が露払いをしております。次にも若い小姓が太刀持ちをし、続きました。そして金髪を輝かせるウィン姫が薄紫色のマーメイドラインドレスに身をつつみ、父親である国王の手をひきます。
国王はホーリーが思っていたよりも高齢でした。70歳近くに見えます。白い口ひげに深く刻まれた皺。そして鷲のように鋭い眼光。威厳と極度の緊迫感に満ちています。
殿には王冠を吊るして運ぶ若い小姓。
全員が所定の位置に付き、ようやくホーリーと国王の会談が始まりました。
「貴殿が、言い伝えにある魔導士か」
口調はゆっくりとした、それでいて重々しい圧力が感じられました。ホーリーは頭を上げることなく「はい」とはっきり答えました。
周囲の僧侶や貴族などからどよめきが起こります。
チラリと周囲を見渡すと、ハンニバル将軍が恐ろしい目でホーリーを睨みつけています。
国王は一度、深く呼吸をし、
「言い伝えによると、非情なる虐殺を繰り返す裸足の魔導士は、世界に破滅と混沌をもたらすというが、貴殿にはそのような思惑がおありか」
「お父様、このお方はそのような恐ろしい者ではございません」
国王の隣に立つウィン姫が急に横槍を入れてきました。国王は苦笑しながら、
「姫は黙っておれ。今はこちらにいる魔導士殿に尋ねておるのだ」
ウィン姫は不機嫌そうな表情をして、それでもうなずきました。
「国王陛下、私の名はホーリーと言います。私にはこの平和な国の秩序を乱そうという意思はございません」
ホーリーははっきりとした口調でそう言い切りました。
意志の弱い貴族たちは、その話し方の威圧感に身震いを起こしています。
信仰心の強い僧侶たちですら強い迫力を感じていました。
「ウム。それではなぜ隣国のシャナムの国を焼き払ったのだ。女、子どもを含め、16万のシャナムが被害に遭ったと聞く。それを知ってギミリスト連合国に攻め寄せた巨大昆虫たちの数も決して少なくはない。人類の平和は確実に脅かされておる」
国王の威厳に満ちた言葉に、ホーリーは何も答えられませんでした。
「お父様、それは向こうが先にアットナム村を襲撃したのが原因ですと先ほどから何度も言っているはずですが!」
ウィン姫が顔を紅潮させながら反論します。
「それを証明できる者は誰かいるのか?」
「アットナム村の住民たちであれば。……あとは王国兵士のギーニハンズが一部始終を知っています」
ホーリーがそう答えると、すぐさまハンニバル将軍が、
「我が軍の斥候であるギーニハンズの報告にはそのような件、一切ございません。この魔導士の偽りの証言でございましょう。ともするとアットナム村の住民とも結託しての偽証かもしれませんぞ」
真っ向からホーリーの主張を否定しました。
「な、なにを……ここにギーニハンズを呼んでください」
「それはできない相談ですな。ギーニハンズは今、別の任務で他国に潜り込んでいるところ。もしかすると新しい証拠を持って戻ってくるかもしれません」
国王はハンニバル将軍の話に敏感に反応し、
「新しい証拠とは?」
「はい。巨大蟻の部族をひとつ壊滅させたのもこの魔導士の力によるものではないかと我々は考えております。その証拠を探りにいっているのです」
「巨大蟻の一件は部族同士の軋轢によるものと結論は出ているはず。むやみに話を蒸し返すではないぞハンニバル将軍」
「……御意」
それでもなお、ハンニバル将軍のホーリーを凝視する視線は殺気に満ちております。
「ギミリスト連合国の本部より、今回の一件についての説明を求められておる。魔導士殿、いや、ホーリー殿。悪いが出向いて本部で説明していただいてよろしいか」
「はい。承知いたしました」
「道先案内人には……」
そこまで国王が口にした瞬間、ウィン姫が右手を高々と上げて、
「私が共に参ります」
周囲の貴族や騎士たちがざわめきます。
「ならぬ。それはならぬと言ったはずじゃ。お前は時期女王なのだ。軽はずみな行動は許さぬ」
「しかし、ドット・フォン・ヘルツォーク二世からの誘拐状が届いています。残念ながらこの国の騎士では吸血鬼には勝てません。ホーリー殿であれば、吸血鬼の魔の手から私を救ってくれるのです」
「護衛の騎士は3倍に増やそう。60名の騎士じゃ。そう簡単には手を出せまい」
「それが100でも足りません。奴らに打ち勝つ魔力が必要なのです」
「しかしの、姫自らが道先案内など聞いたことがない」
「お父様、私はこのたび、このホーリー殿からプロポーズをされております」
周囲がさらにざわめきます。怒号にも近い声も響いてきました。
「いや……ちょ、ちょっと待ってください」
「私はこの男から求婚され、承知したのです!!私にはこの男を無事に本部へ送り届けねばならぬ責務があります。妻としての責務です!!」
ホーリーの反論の声は、ウィン姫の大迫力の演説の前に消されてしまっています。
「姫と結婚できるのは、15の国の王族のみという決まりがございます」
ハンニバル将軍が驚愕の表情を浮かべながら反駁しました。確かにそうです。しかも現在ウィン姫には12国の王族の許嫁がいます。
「いや、例外はある」
そう答えたのは、以外にも国王でした。国王は頭を抱えながら、
「ギミリスト連合国の本部の許可を得られれば、王族以外との結婚も許されるのだ。そのためには議会の過半数以上の賛成が必要になるがな」
「本当ですか、お父様!!」
ウィン姫は無邪気に喜んでいます。まるで結婚が決まったかのようです。
「ただし、過去100年のなかで許可が下りた例はわずかにひとつだけじゃ。反対に終わった場合は潔く戻ってくるというのが出立の条件じゃ」
国王は苦しそうにそう答えました。
このわがまま娘が一度言い出すと絶対に退かないことを、国王はイヤというほど体験してきているのです。
「ありがとう、お父様!」
ウィン姫は国王にそう言って抱き着きました。
「僕の、僕の意見は?」
こうしてホーリーとウィン姫のギミリスト連合国の本部への旅が始まるのです。
毎朝午前3時に作品を更新していますが、
昨日午前3時に祖母が他界しました。92歳の大往生です。
祖母があの世で読んでくれても楽しめる作品を書きたいですね。
おばあちゃん、ゆっくりお休み下さい。




