第2章 2・ケリーとの会見
トリミング王国に戻ったホーリーは、この国の王に会い、話をすることになりました。その前に、ケリーに会って状況を確認します。
第2章 2・ケリーとの会見
「ホーリー様、ウィン姫の侍女・ケリーにございます。お邪魔いたします」
そう名乗ってホーリーの部屋に、ひとりの女性が入ってきました。
茶色の長髪をフィッシュボーンに編んで、左の肩口から胸元におろしています。前髪は両目がはっきりと見える状態になっていますが、全体的に緩めのセットで、大人の女性を演出していました。
両目には大きく優し気な瞳。こちらも茶色です。髪の色の方が幾分暗めです。だから余計に透明感のある輝きを瞳が放っているように感じました。
鼻筋はしっかり通っていて、唇は少し厚めの桜色で自然な微笑みを浮かべています。
全身は純白のハイ&ロードレスタイプのドレスで、細く長い脚が太ももから大胆に露出されています。
すっきりとした首元にも純白のフェザーネックレス。
胸元の谷間まで大胆に開いていて、全体的に清潔感がありながらも、妖艶な女性の魅力も十分に漂わせていました。
トリミング王国一の美女という話もうなずけます。
「先日はありがとうございました。巨大昆虫から救出していただいたばかりか、魔法の力で脚の傷まで治していただいて」
つい先日、トリミング王国の地下下水道地帯で言い争ったのが嘘のように、ケリーは落ち着いた大人の女性の口調です。
「城までご案内いたします。城に到着しましたら少しばかりお話をさせていただき、トリミング王国国王陛下へのお目通りという流れです」
「は、はい。よろしくお願いします!」
ホーリーはケリーのあまりにも美しい姿に見惚れながら返事をしました。
ホーリーが半ば幽閉という形で囚われていた部屋は、城からやや離れた場所にある塔です。30mほど階段で降り、そこからまたしばらく歩くことになります。
ケリーは颯爽と歩いていきます。ハイ&ロードレスのドレスは後ろに長いので、脚はよく見えませんが、ヒップにかけての流線は魅惑的で、ついつい見惚れてしまいホーリーは何度もつまずきました。
ハリウッド映画でも、ここまで美しい女性は見たことがありません。
そんなケリーの先導によって、城門もフリーパス状態です。
心なしか城内の兵士たちもケリーに見惚れている様子でした。
「さあホーリー様、こちらの一室でお待ちいただくことになります」
絢爛豪華な客間に通されました。
装飾の施された椅子に座ると、召使いたちが紅茶をいれてくれます。デザート用なのか珍しい果物まで出されてきました。
どうもここまでの対応を見る限り、犯罪者に対するものとは異なるようで、ホーリーは少しホットしています。
ケリーは召使いたちを全員下がらせ、自らも椅子に座り、脚を組みます。
純白なドレスの間から、健康的な美しい肌色の脚が露わになりました。
ホーリーは思わず飲んでいた紅茶を吹き出しそうになって慌てました。
「ホーリー様にはこれより国王陛下に会っていただくことになりますが、その前に状況だけはしっかりと把握しておいていただきたいのです」
大胆な脚の組み方とは対称的に、口調や表情はとても丁寧で誠実さを感じさせます。
「わかりました。お話をお聞きしてよろしいですか」
ホーリーはなるべくケリーの顔を見ながら話をするように心がけます。首より下はホーリーには刺激が強すぎるのです。
「この世界は4つに分けられています。ひとつは我々人間が支配する地、ギミリスト連合国です。勢力は一番弱く、領土もとても狭い中で暮らしています。もうひとつは巨大昆虫の国。静寂の森と呼ばれていますが、最も勢力が大きく、領土はこの世界の35%ほどを占めています。今回は巨大蟻の部族との抗争がありましたが、巨大蟻は巨大昆虫の世界ではほんの一握りの部族です。巨大昆虫全体の数は20兆を超えていると言われています」
だいたいの話は以前、スマホアプリのマリエッタから聞いていましたが、巨大昆虫の数が20兆というのは初耳です。
「100年前に人類と巨大昆虫は和平条約を締結し、互いの領土への侵略を禁じました。それ以来、表立っての戦争は起こってはいません。仮に戦争となれば、ギミリスト連合国はあっという間に凄まじい数の巨大昆虫に潰されてしまいます。巨大蟻の一件はガミジン族とシグナリ族との部族紛争という形で解決されましたが、ホーリー様がそれ以前に行ったシャナムの国への攻撃・虐殺が大きな問題となっているのです。下手をすると和平条約は破棄されかねません」
「確かに僕はシャナムの領土を焼き払いました。しかし、それはシャナムがアットナム村に生贄を差し出すように要求していたのが原因です。不可侵条約を破ったのは向こうが先になるはずです」
ホーリーは、はっきりと自分の思っていること・考えていることを主張しました。緊張で少し噛む場面もありましたが、この世界に来る前のホーリーから比べると信じられない行為でした。以前は常に誰かの指示に従い、自分の主張なんて押し殺してきたのですから。
「ええ、その話も聞いています。しかし、巨大昆虫の国はその事実を認めようとはしないでしょうが」
「そんな……」
「この後の国王陛下からのお話で、ホーリー様には事情の説明のためギミリスト連合国の本部に出向いていただくことになります」
「連合国本部……」
「はい。人類は15の王国が集まって連合国を形成しています。本部はサンシェルベという場所です」
「サンシェルベ……」
「最強の魔法王国だったサンシェルベ王国のことです。今は連合国本部という呼称になっています」
「魔法王国ですか……それで15個も宝玉があるんだ……」
「宝玉?」
「あっ、いえ、なんでもないです。こっちの話です。そこに行けばいいんですね」
「本部サンシェルベには連合国盟主であるバッグルハインツという方がいます。その御方を含めた議会の決定に従っていただきます」
「議会なんてあるのですか?」
「15の王国からそれぞれひとりずつ代表を選出し、本部の特別代表とあわせて30人で議会を運営しているのです。議会の決定に背くことは許されておりません。そんなことをすれば王国は御取り潰しになります」
ここでケリーはゆっくりと紅茶を口にしました。
ホーリーは何とも納得いかない表情で、
「でも僕はトリミング王国の人間じゃありませんよね。議会の指示に従わなくとも、この国に迷惑をかけることはないんじゃないですが?」
ケリーはテーブルにティーカップを置くと、ひとつため息を漏らし、
「それがそうはいかなくなったのですよ」
「……いかなくなった?なぜです」
「姫様が……この国を継ぐことになっておられるウィン・ド・トリミング姫が、あろうことかあなたの妻になると言い出してきかないからです。あなたからのプロポーズを受けると。よもや私の救出時にそのようなお約束を交わされていたとは……」
「え!?プ、プロポーズですか?」
「正直なところ、国王陛下をはじめ臣下一同が憤りを感じております。そのあたりの弁明も交えてのお話にこの後はなるかと」
「い、いや、だって……」
「ケリー様、お時間でございます」
召使いがドアを開いてそう告げてきた。
まったくもって腑に落ちない状態で、ホーリーはトリミング王国国王に面会することになるのです。
雪は降らないけど、とにかく寒い。
一日中気温がマイナスです。
今日から大荒れだそうですね。怖い……




