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第1章 22・主力の進軍

第1章 22・主力の進軍


 「ラムサスさん、今はそれどころでは……」

「それどころ?それどころではとはなんですか!一国の姫を……このように露出の多い姿に晒しておいて、さらにそこに乗りかかる行為が……それどころなのですか!」

「いや、それは僕が脱がしたわけじゃない、っていうか……そもそも」

「脱がした!?」

「で、ですから、そういう行為はしていません」

ダジタジとなっているホーリーに、王国軍将校のラムサスは鬼のような形相で執拗に追及します。


 「よいではないかラムサス。夫婦めおととなれば毎晩することだ」

ウィン姫が軽い欠伸あくびをしながら、言葉だけで止めにかかるのですが、余計にラムサスは逆上し、

夫婦めおととなったらするような行為をされたのですか!?」

「先駆け、抜け駆けが好きな男らしいな、この裸足の魔導士は。ただし、私の夫になれると決まったわけではない。これから押し寄せるあの10万の大軍を退けてからの話。そうなれば好きなように続きをすればよい」

「姫様、またそのような勝手なことを!裸足の魔導士殿は何か続きをご所望か!?」


 この時点でラムサスのホーリーを睨みつける視線からは殺気しか感じられません。もはや問答無用で斬り殺すと言わんばかりの表情です。


 「と、とにかくもうガミジン族10万の大軍が押し寄せます。さっきの戦闘で効果のあったこのフェロモンスプレーは効かないことがわかりました」

ホーリーが目の前のラムサスの怒りだけではなく、背後から聞こえてくるガミジン族の咆哮をしきりに気にしながら、みんなに知らせます。


 「トリミング王国の地下下水道地帯で使用した魔法を使えばいいのに!」

少し元気を取り戻したノエルがそう提案しました。


 以前に召喚した殺虫剤エアゾールの強化ガスのことです。確かに召喚はあとひとつできます。ホーリーも戻ってくる車内で考え着きましたが、大きな問題がありました。


 「やつらは風上から攻めてきます。ガスが風に押し戻され、シグナリ族の蟻塚にも広がることでしょう。ガミジン族にも効果はあるもののシグナリ族は全滅です」


 仮にこちらが風上であったとしても、ここでの使用は危険すぎます。僅かでもこのガスを吸収すれば大概の巨大蟻アントは死亡することになるのです。

 ガスがどこまでどう広がるかは、やってみなければわかりません。非常に危険で成功確率の低い賭けです。シグナリ族を壊滅させてしまったらそれこそ意味がありません。怒り狂った巨大昆虫ムシは大挙して、トリミング王国をはじめ、ギミリスト連合国に襲い掛かってきます。

 巨大昆虫ムシと人間の本格的な戦争が始まることになるのです。失敗は許されません。


 「では、どうする?」

巨人バスケスが巨大な戦槌を握りしめ問いました。


 「僕に考えがあります。時間がありませんので、これからお話する配置についてください。ウィン姫に関する誤解はこの後、必ず晴らします。今は目前に迫る危機に集中してください!」

ホーリーは力強くそう言い放つと、手短に作戦を説明し、全員を展開します。


 

 一方、十万のガミジン族は速度を緩めて、シグナリ族の蟻塚に進軍していました。


 斥候に放った数名と先陣の数名が敵と接触し、殺害されています。よもやこんなにも早く人間がこの地に潜入してくるとは考えていなかったですし、シグナリ族への進行上に現れるとは想定外のことでした。


 ガミジン族の巨大蟻アントのほとんどはそんなことはお構いなしにシグナリ族の蟻塚を目指しています。

 彼らは考える必要がありません。女王蟻クイーンが発しているフェロモンはその一点だけをめいじているからです。女王蟻クイーンの指示に従うことだけが彼らの取るべき行動でした。

 よって、シャナムの国を焼き払ったという人間2名の襲撃は、この引っ越しの後に引き延ばしになっています。

 

 ただし、女王蟻クイーンをはじめとする幹部級の巨大蟻アントは警戒を強めていました。


 なんといってもトリミング王国を襲撃させた兵隊蟻の精鋭1万を一瞬で撃退することのできる人間が存在するのです。信じられないことですが、人質を引きつれ瀕死の状態で帰還してきた兵隊長の報告がそれを裏付けています。

 シグナリ族攻略のために先行させた5万の兵からも報告の使者は戻ってきてはいません。もしかするとその人間と協力し、シグナリ族に撃退された可能性もあるのです。


 そうなるとこの10万の兵が主力として、再度シグナリ族の蟻塚を攻めねばならなくなります。


 実はこの10万の兵の半数以上は幼虫や子どもたちでした。

 大多数の兵隊蟻が卵を抱えています。蓄えていた食料や今後の交渉に何かしら使えそうな財宝も根こそぎ運び出しています。


 戦闘になった場合、すぐに動かせる兵の数は2万程なのです。


 待ち伏せが得意なガミジン族としては、この先にいかなる罠が仕掛けられているのか、伏兵はいないか、慎重になってしかるべき状況でした。

 

 それが進軍の速度を極端に落とした原因です。

 斥候の数も10倍に増やしています。その報告を確認しながら進み、目的のシグナリ族の蟻塚はもう目前に迫っています。


 この主力10万の壊滅は、ガミジン族滅亡と同じ意味をもつのです。

 失敗や敗戦は許されません。


 用心に用心を重ねて、ようやくシグナリ族の蟻塚のふもとが確認できる位置まできました。


 ここまで特に仕掛けられた罠はありません。防御線を守っているはずのシグナリ族の姿もありませんでした。


 先行した5万が、予定通りにシグナリ族の蟻塚を落としていたのだろうか……。そう感じてしまうほどの静寂が漂っています。


 10万の中から2万の兵を先行させます。

 戦闘用の兵隊蟻すべてを注ぎ込みます。それぞれを4千ずつに分けて、信頼できる兵隊長5人に指揮を任せました。


 そのうち2部隊を横並びに先行させ、その背後に3部隊が横に並びます。


 蟻塚の入り口が見えてきました。


 潜入を阻止するような軍隊の動きは確認できません。


 5部隊は辺りに警戒しながらさらに進軍します。


 すると入り口近くに、人間がひとり立ってこちらを向いています。発するフェロモンから、兵隊長の5匹だけは、それがトリミング王国で同朋1万の命を奪った人間であることを即座に感じとっていました。


 2部隊がその人間に標的を絞りジリジリと進んでいきます。背後の3部隊は2部隊が撃退された場合は、隙を見て即座に攻撃に移れる態勢をとっています。


 人間までの距離は5m。


 まずは、2部隊の兵隊蟻合わせて8千が同時にその人間に襲い掛かりました。


天候に恵まれたお正月でした。

初詣も2か所行きました。おみくじは小吉と末吉。

今年も踏ん張りどころです。

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