第1章 21・撤退
第1章 21・撤退
月光に照らされ、ウィン姫の白い肌が夜の暗闇に浮かび上がります。
肌にまとっているのは、深い緑色をした薄手ノースリーブに黒のショートパンツ、ライトブラウンの戦闘用ブーツだけです。
右手に持たれた銀の剣の刃以上の輝きをその純白の肌から感じて、ホーリーはドキッとしました。
(いやいや、それどころじゃない!)
そう自分に言い聞かせます。
「なんだ、貴様が私に見とれていてどうする。さて、虫けらの女王の魅力と、次期トリミング国女王の魅力、どちらが上か見せてくれよう!」
押し寄せてくるガミジン族の10万の群れに向かい剣を突き出し言い放ちました。
(この少女は本気でそれで何とかなると思っているのか……。マリエッタ、どうしよう)
【分析結果をお伝えいたします。ウィン姫の発するフェロモンのガミジン族に対する効果は限りなくゼロに等しいです】
(わかってる。それは言われなくてもわかるよ)
【ただし、ホーリー様の動悸は高まり、性欲値が異常に高まっております。ホーリー様への効果は認められました】
(余計なお世話だよ!!そんなことよりどうするの?)
と、群れの斥候でしょうか。5匹の巨大蟻が目前に現れたのです。その強い殺意の表れか、あごを鳴らし、激しく咆哮を始めました。
「見よ裸足の魔導士。私の女王の気品に巨大蟻たちは押されているではないか!」
ウィン姫はそう言って、白い歯を見せて笑っています。
ホーリーには到底そうは見えません。
ギギギギギギ……
5匹の巨大蟻が同時にウィン姫に襲い掛かります。
「走飛爆牙!!!」
ウィン姫は左手を地面にスクエアにスエーすると弾丸のようなものが飛び出し、5匹の後ろ脚を吹き飛ばしました。
「下郎が、頭が高いわ!!」
ホーリーの目にはとまらぬ程の斬撃の速度で、5匹の首を斬り捨てます。
巨大蟻の青い血が同時に宙に吹き上がりました。
「ウム。それ見たか。私の発するフェロモンの前に手も脚も出ないではないか」
(いやいや、完全に斬り殺しているでしょ)
などど突っ込んでいる時間はありません。ホーリーは勝ち誇った顔をしているウィン姫の手を引きました。
「何をする。敵を目の前にしてどこに行く気だ!?」
「一時撤退です」
【ご主人様の提案に賛成です。ここはワープ専用小型車を使ってシグナリ族の蟻塚に戻った方が賢明でしょう】
ホーリーの頭の中で、マリエッタも賛同してくれました。納得していないのはウィン姫だけです。
「敵前逃亡は打ち首じゃ。貴様は腑抜けか!」
激しく抵抗を続けます。
10万の群れはもう目と鼻の先まで近づいています。こちらにも当然気が付いています。
「逃げるんじゃない。態勢を立て直すんだ。勝つために退くことも大事なんです!」
ホーリーは叱りつけるように言うと、ウィン姫は少し驚いたような顔をしました。
すかさず車に押しこみます。
「マリエッタ、すぐに出発してくれ!!」
ホーリーが声に出して指示を出したのと、巨大蟻の黒い波に飲み込まれたのはほぼ同時でした。
車に衝突してきた巨大蟻の衝撃で、ホーリーとウィン姫は倒れ込みます。
すぐに静寂が訪れました。
【間一髪のところで出発は間に合いましたが、巨大蟻の衝突を何度か受けてエンジンの調子がおかしいです。ワープできませんでした。自走で走っております】
(とりあえず助かったけど、この車はワープ専用じゃなかったっけ?大丈夫?)
【緊急の場合を想定して自走もできるようになっていますが、速度はそれほど速いものではありません。計算上ではシグナリ族の蟻塚に到着後、2分でガミジン族の群れが押し寄せます】
(2分……ほんとうに巨大蟻より微妙に速いぐらいなんだ……)
【シグナリ族の蟻塚の到着まで7分です】
(到着までに打開策を考えなくちゃ……9分後には決戦だ。もう退くわけにはいかないし……)
「おい、貴様いつまで私の上に乗っているつもりだ」
ウィン姫の声で我に返ったホーリーは、倒れ込んでウィン姫の上に覆いかぶさっていることに気が付きました。
真っ白いうなじと盛り上がった胸元が目に飛び込んできます。
「す、すいません。不慮の事態で……」
ホーリーは真っ赤になってすぐに立ち上がります。
ウィン姫が左手を差し出してきました。
ホーリーが慌ててその手を握ると、逆に簡単に引き倒されました。その反動でウィン姫はすっと立ち上がります。
「婚約の手順も踏んでいないのに気の早い奴だ。そんなにも私と結婚したいのであれば改めてその魔力をもって敵を退けよ。次の撤退は私が許さぬ。その首、斬り落とすことになるぞ」
「は、はい……」
ホーリーはいろいろと反論したい気持ちを抑えながら、そう手短に返事をしました。
やがて、車はシグナリ族の蟻塚に到着し、二人は取り残してきた仲間たちの前に姿を現しました。
ウィン姫の愛犬のナターシャが猛然と駆け寄ってきてウィン姫に飛びつきます。
「すまぬナターシャ。置いて行って悪かった」
ウィン姫はナターシャとじゃれあいながらそう言って謝りました。
「姫様、私に無断でどちらに行かれていたのですか?」
王国軍将校ラムサスは憤慨しています。ウィン姫護衛の役目を自身の使命と強く誓っているのです。
「う、うむ、ちょっとな、敵陣視察だ」
ウィン姫も歯切れの悪い返答です。無断で出陣したことに罪悪感は感じているようでした。
ラムサスはウィン姫の服装に気が付いて、すぐにホーリーに詰め寄りました。
「裸足の魔導士殿、貴殿まさか、姫様に何かしたわけではあるまいな。もし不埒な真似をしていたのであれば、この場で即刻その首もらい受ける!!」
どうやらとてつもなく大きな誤解をしているようです。
「いや、違いますよ。僕は何もしてません」
「そうだラムサス。気にすることはない。上に乗られただけだ」
ウィン姫がナターシャを撫でながらそう言いました。
「姫様の上に乗っただと!」
「ふ、不可抗力で倒れてですよ……下心はありません……誓って言えます」
「許せぬ!!」
ホーリーは鬼のような形相のラムサスに完全に怖気づいていました。
ガミジン族の群れが到着するまでの2分がそろそろ経過しようとしていました。
明けましておめでとうございます!!
2016年ですねー。今年もよろしくお付き合いください。
できる限り午前3時に更新していきます。
ご感想ぜひよろしくお願いいたします!!




