第1章 16・轟音
第1章 16・轟音
シグナリ族の蟻塚の入り口前は、ホーリーたちとガミジン族の乱戦状態です。
先陣を切るのは、黒き破壊者「ブラバス」の異名をもつキリュウ・アルドイッヒ。その巨大な剣が旋風のように振り回され、無数の巨大蟻の首が飛んでいきます。漆黒の甲冑は巨大蟻の強靭なあごをもっても砕くことはできないようです。
「……爆穿弾!!」
爆裂の呪文とともに巨大蟻の青い血が巻き上がります。トリミング王国姫ウィン・ド・トリミングです。魔法剣士マスターの称号通り、爆裂の呪文を織り交ぜながら、銀の剣スットガルトで的確に巨大蟻の首を斬り落としていきます。
愛犬のナターシャも巨大蟻の首筋に食らいつき、その獰猛な牙で噛み切ると、飛び上がって次の獲物に襲い掛かります。
影ながら王国軍将校ラムサスもその長剣を振りかざし、ウィン姫の背後を突こうとする巨大蟻を斬り捨てています。凄まじい斬撃です。青い髪をなびかせながら一撃で強固な巨大蟻の身体を両断していました。
少し離れた場所では、巨人バスケスが巨大な戦槌で巨大蟻の頭を潰してまわっています。振り上げると隙ができるのですが、そこを襲おうとするものはヨークの矢に射られて悶絶します。見事な息の合い方です。
クイという名をつけられた女王蟻は他の4匹のシグナリ族と陣形を組んで戦っています。ホーリーの医療薬のお陰で身体が大きくなったばかりではなく、攻撃力も上がっているようで、どんどんとガミジン族をなぎ倒していました。
とは言っても、万を超える数の巨大蟻の群れです。
奇襲で虚を突かれて押され気味でしたが、隊長クラスの巨大蟻が冷静さを取り戻して陣を組みなおそうとしています。
やせっぽっちのヒューイは戦さの流れをじっと見ていました。
そして傍らに立つ少年ノエルに指示を出します。
「右翼はキリュウ殿、ウィン姫らの活躍で完全に陣は崩壊しています。中央はバスケス殿やクイの活躍で押し気味。左翼から息を吹き返して反撃がきますね。やれますかノエル殿」
終始笑顔を絶やさないノエルは、
「もちろん!」と元気よく答えて、左翼の群れに一人で向かいます。
「大丈夫ですか?」
ホーリーがヒューイのもとに駆けつけて尋ねました。武器も装備していないノエルが単独で何ができるというのでしょうか。
「ええ。見ていたらわかりますよ」
ヒューイはそう答えて微笑みました。
ノエルの目前には数千匹の巨大蟻が陣を組みつつありました。中央にはひときわ大きな兵隊蟻の姿が垣間見えます。おそらくは兵隊長です。しきりに周囲に命令を下しています。
ノエルは目を閉じて、両手を組んで印を結びます。
ホーリーの耳にもノエルが何かを唱えている声が聞こえてきました。
「耳」
「え!?何ですか?」
「耳を閉じておいたほうがいいですよ」
「はあ?」
ヒューイにそう忠告されてヤンを見ると、ヤンはもうすでに両手で両耳を塞いでいます。ヒューイも同じように耳を塞ぎました。ホーリーは意味がわからずモタモタしています。
「雷撃蜘蛛巣砲!!!」
ノエルがそう叫ぶのと、まばゆい光が左翼の陣を包み込むのは同時でした。
そして、真上に雷が落ちたかのような轟音が響き渡ります。
ホーリーはその音に驚き、腰を抜かしました。
「ノエル殿は黒風党唯一の魔法使いなんですよ。しかも雷撃系のマスター級のね。敵勢力に与えるダメージは黒風党で最強を誇っています。実質NO1の戦力は彼なんです」
ヒューイの言葉通りに左翼の巨大蟻のほとんどは感電死したように黒い煙を吐いてひっくり返っています。
その中央には兵隊長が……まだかろうじで息があるようで、赤い目をさらに燃やしながら、ノエルに突撃してきました。
ノエルは巨大な呪文を唱えた後で、フラフラしています。
ヒューイが長槍を振るって駆けます。
兵隊長とすれ違いざまに槍の穂先が目にもとまらぬ速さで回転しました。
兵隊長の首が飛びます。
その胴体だけが、ノエルの目前に飛び込んできました。
「やっぱりまだ対大部隊用の呪文は僕には負担が大きいな……」
ノエルは苦笑いを浮かべながら倒れ込みました。
ヤンがすかさず抱きかかえます。
「よくやったぞノエル。これで敵陣は完全に統制を失った。数だけいても烏合の衆同然じゃ。裸足の魔導士殿、最後の詰めをお頼み申す」
ヤンがそうホーリーに語り掛けてきます。
敵陣にはまだ数万の巨大蟻がひしめいているのです。
(ここでもうひとつ道具を召喚するのかー……もうふたつ召喚しているから、あとふたつ。ケリーさんを救出するのに必ずひとつ必要だから……召喚できるのは実質あとひとつか)
さて、どうすべきか、ホーリーは悩むのでした。
年末年始ですが、ぜひ時間あるときにお読みください。
私は毎朝3時に更新し続けます!!




