第1章 15・奇襲
ついに感想、第1号いただきました!!!
ありがとうございます!!!
第1章 15・奇襲
ホーリーたち一行は、再び「ワープ専用小型車」に乗り込みました。マリエッタはバージョンアップしているので、道具の召喚ターンは2時間と延長しています。召喚した車はまだしばらくは使用が可能でした。
「大丈夫かなー、襲われたらひとたまりもないよ」
シートに座った少年ノエルが今にも泣きだしそうな声をあげました。
両側のシートの間の通路には女王蟻をはじめ、重症をホーリーの治療薬で完治させた巨大蟻が4匹。合計5匹の巨大蟻で通路は埋め尽くされています。
「本当に大丈夫なんだろうなー」
ヨークも不満気な表情でホーリーに呼びかけます。手元の弓はいつでも矢を放てる態勢です。
ほかにも漆黒の甲冑姿のキリュウや巨人バスケスなどは、あからさまに巨大蟻に向けて殺気を放って身構えています。ヤンとヒューイはなるべく巨大蟻を視界に入れないようにと外の景色を眺めていますが、表情はやはり緊張していました。
意外に気にも留めていないのがウィン姫です。ホーリーの横にピタリと座り、緑に輝く瞳をパッチリと開いて平気な顔で座っています。愛犬のナターシャもご主人様が平然としているので、唸ることなく床に伏せをしていました。巨大蟻が殺気を放っていないことを一番敏感に感じっているのは、このナターシャなのかもしれません。
(マリエッタ、密林地帯だけど、この車でシグラリ族の蟻塚には行けるの?)
【ホーリー様、ご安心ください。あくまでも空間を折り曲げて移動しますので、運行には問題がありません。到着する場所の障害物もしっかり除去するように設定されています】
(どのくらいの時間がかかりそう?)
【計算上では約2秒です。蟻塚よりもやや離れた場所に停車いたします】
「OK。じゃあ、皆さん、出発します」
ホーリーの声に合わせて車が少し揺れました。
「到着です」
「はや!!」少年ノエルが驚きの声をあげます。
外の景色は密林が開けた草原地帯です。
「車から降りたらすぐに戦闘になりますが、同士討ちに気をつけてください。あくまでも戦う相手はガミジン族です。シグラリ族は味方ですので」
ホーリーがそうみんなに呼びかけます。
「小さいのが味方で、大きいのが敵だろ」
キリュウが簡潔にまとめます。確かにガミジン族に比べるとシグラリ族はひと回り以上、身体が小さいのが特徴でした。
「でも、相手は僕たちが味方だって認識ないよね」
少年ノエルの疑問に、何人かがうなずきます。こっちに敵意がなくても襲われたら戦わざるを得ません。
「クイが味方のフェロモンを分泌してくれています。シグラリ族が襲ってくることはありえません」
ホーリーが答えました。
クイというのは乗車している女王蟻の名前です。杭を打ち込まれていたのでそう名付けました。名付け親はウィン姫です。
女王蟻にはフェロモンを分泌して部族の意思を統一する力をもっています。
TORを超活性化して重症を完治させた巨大蟻はシグラリ族とはいえ、身体が巨大化しています。ガミジン族と見分けがつくように後ろ足に黄色のバンダナを巻きました。
「目が決定的に違います。赤い目をしているのがガミジン族です」
ホーリーの声を聞きながら、全員が車を降ります。5匹の巨大蟻も大人しく指示に従っています。
車から150mほど離れた地点に山のように大きな蟻塚がありました。これがシグラリ族の巣です。
「……もう手遅れの様子ですね」
王国軍将校のラムサスが巣の様子を確認して、そう言いました。
大きな蟻塚の周囲には首を噛み切られたシグラリ族の死骸が散らばっています。
入り口にはガミジン族が狂気の雄たけびをあげながら殺到していました。
五万の兵隊蟻の半数近くはすでに入り口の守備陣形を突破し、蟻塚の中に侵入しているようです。
見渡す限り、巨大蟻、巨大蟻。びっしりと草原を覆い尽くしています。
「蟻塚の奥へ通じる道は迷路のようになっていますし、通路も狭いので多勢の利は活かしにくい。おそらく巣の中では未だ攻防は続いているはずですね」
やせっぽっちのヒューイが冷静に分析してみんなに伝えます。
車から降りた5匹の巨大蟻も、自分たちの巣から感じる敵のフェロモンや味方の危機を伝えるフェロモンに反応して、興奮し始めました。
「ようやく気兼ねなく戦えるわけか。まったく、身体がなまって仕方ない。さっさとこいつらを討ち取り、ケリーの救出へ向かうぞ。裸足の魔導士、まずは例の魔法で一掃せよ」
ウィン姫がそうホーリーに命令を下しますが、ホーリーは困った表情で、
「ガス式の殺虫剤エアゾールは、巨大蟻全体に効果を発揮してしまうんです」
「だからどうした?」
ヒューイがうなずきながら、
「そうか……その魔法を使うと、ガミジン族だけでなくシグナリ族も壊滅してしまうのですね。双方にダメージを与えてしまうのでは、その魔法は使えませんね」
それを聞いてウィン姫がホーリーを睨み付け、
「それでは私たちだけでこの数を掃討するというのか?それが貴様の作戦か?」
「…ええ、ここは皆さんのお力に期待するしか……」
細々とホーリーが答えていると、黒い影が凄まじい勢いで横を駆け抜けていきました。
漆黒の甲冑姿のキリュウです。
巨大な剣を肩に担いで、巣の外にひしめいているガミジン族に突撃していきます。
「さあ、祭りの始まりだ!!」
そう叫ぶと、旋風のように剣を振ります。
見る間に10匹以上の巨大蟻の首が飛びました。普通の剣では刃が欠けるほど強靭な身体をもっている巨大蟻の身体をいとも簡単に両断していきます。
気が付くとクイを含む5匹のシグナリ族もキリュウに続いて、ガミジン族の群れの中に飛び込んでいます。この5匹はTORの超活性化によってガミジン族よりも身体が大きくなっていました。凄まじい勢いで敵を踏み砕いていきます。
巨人バスケスも巨大な戦槌を振り回し、巨大蟻の頭を軽々とつぶしています。
ヨークはバスケスに接近する巨大蟻に対巨大蟻用の矢を速射しました。矢を射られた巨大蟻は途端に足元から崩れ去ります。
「なんだ、私が完全に遅れをとっているではないか!」
ウィン姫はホーリーを睨みつけると、ナターシャを率いて敵陣目指して駆け出しました。
王国軍将校ラムサスもそのすぐ背後について護衛の構えです。
残っているのはホーリーと老人のヤン、やせっぽっちのヒューイ、そして少年ノエルの4人です。
「奇襲で完全に陣形は崩れましたね。さらに効果的な一撃をおみまいしましょうかノエル」
ヒューイがそうノエルに語り掛けます。ノエルは無邪気な笑顔を浮かべてうなずきました。
ホーリーはこの少年に一体何ができるのだろうかと不思議そうに眺めていました。
あっという間にクリスマスも終わり、次は大晦日、お正月ですね。
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