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第1章 14・戦略

第1章 14・戦略


 「女王蟻クイーンを仲間に加えて、さらに数匹の巨大蟻アントを従えてどうするというのだ?部族間の抗争に巻き込まれて、肝心のケリーが殺されてしまっては元も子もない。さあ、ケリーが囚われている蟻塚に急ぐぞ!」

ウィン姫が怪訝けげんそうな表情で、そうはやしたてます。

 

 【ガミジン族の蟻塚から5万の兵隊蟻が出撃したうようです。確かにガミジン族の蟻塚は手薄になっています。攻めるならば今が最適でしょう。巣に残っている15万匹には幼虫や子どもも含まれていますから、戦闘に加われるのは7万匹ほどの見込みです】


 マリエッタもウィン姫の意見に賛同しています。


 しかし、ホーリーはこのとき、まったく別のことを考えていました。


 「僕は、まずシグラリ族の蟻塚を守るために助力したいと思います」


 意を決して言葉にしましたが、ホーリーの主張にはさすがにみんな表情を曇らせました。 

 それは当然の話でした。今回の作戦の一番の目的は奪われたケリーの奪還なのですから。


 「貴様、目先の情に溺れたのか?」

ウィン姫が鋭い眼差しと共に剣を抜きました。愛犬ナターシャも唸り声をあげます。


 「……」

ホーリーは答えに窮しました。確かに困っているシグラリ族を助けてあげたいという感情はあります。ケリーさんを一刻も早く救出したい気持ちも同時にありました。しかし配慮しなければならないのはそれだけではないのです。

 ホーリーはうまく言葉で表現できませんでした。


 「急がば回れのことわざもありますからね」

やせっぽっちのヒューイがそう言って助け船を出しました。どうやら彼だけは何かを察した様子です。


 「遠回りをして何の利点が?僕たちに何の得があるの?」

弓を手にしたヨークが反論します。巨人のバスケスもうなずきました。

 「おそらく裸足の魔導士殿は、失礼、ホーリー殿は、ガミジン族の蟻塚に攻め込んだ後のことをご心配されているのでは?」

「攻め込んでケリーを救出したら即刻国に帰るだけだ。問題はあるまい。その邪魔をする巨大蟻アントはすべて斬り捨てるのみ!わずかな味方を増やして戦おうとは臆したか裸足の魔導士!」

ヒューイの言葉を聞き、ウィン姫が怒りの表情に変わります。


 「僕が、僕がシャナムの国を焼き払ったから、仕返しにガミジン族がトリミング王国の地下に現れました。もし、ここで僕がガミジン族の蟻塚を攻めるとどうなります?さらなる仕返しが待っているはずです」

ホーリーは時々唇を噛みながら、必死に説明しました。


 「さらなる仕返し?」

「ええ、今度は巨大蟻アントの国全体を敵に回すことになるんです」

ウィン姫の問いに、ホーリーはそう答えました。


 「そうなると真っ先に標的にされるのはトリミング王国ということになりますね。巨大蟻アントの群れ一億匹の侵攻を止めるすべはトリミング王国にはありません。国民は皆殺しになります」

さすがヒューイは黒風党ブラームの参謀役です。先のイメージまでしっかりとできています。見通しはホーリーとほぼ一緒です。


 それを聞くとウィン姫は唸りましたが、

「かと言って、部族間の争いに参入してどうするというのだ。殺すガミジン族の数が増えるだけではないか」

「むしろ、部族間の争いにしてしまおうとホーリー殿はお考えなのでは?攻め込まれているシグラリ族を助け、その後にシグラリ族の逆襲に手を貸す。その中でケリー殿を救出する。これならばガミジン族の蟻塚がシグラリ族に占領されたことになるので、人間界と巨大昆虫ムシの世界との争いには発展しない」

ヒューイの説明を聞いて、ヤンも強く同意しました。

「戦禍が広がるのは我らの本意ではない。確かにこの部族間の紛争は渡りに船かもしれぬ」


 いつの間にかシグラリ族に手を貸す方の意見が優勢になってきました。


 「うーん、仕方がない。ではさっさとそのシグラリ族とやらに協力し、攻め込んだガミジン族を倒そう。たかが100匹、私一人でも十分だ」

ウィン姫も納得してくれたようで、ホーリーはほっとしましたが、

「それが、先兵は100匹ですが、併せて5万匹も侵攻中なんです……」

マリエッタからの情報をみんなに伝えました。


 「5万ですか……」

さすがのヒューイも青ざめます。人間の兵力で計算すると50万の大軍です。とても10名の戦士でどうにかできる数ではありません。


 「むしろこの隙にガミジン族の本陣を突いて、ケリーさんだけを救出したほうが手っ取り早いんじゃないの。何も蟻塚全部を占拠する必要もないわけだし、さっと救出してしまえば巨大蟻アントの部族が一致団結することもないでしょ」

ヨークが煙草をふかせながらそう言いました。


 「もともと20万を相手にした戦いだ。今更5万でも15万でも構わんが……俺はヨークの案が一番だと思うが、別に他に気になることがあるのか?」

漆黒の甲冑姿のキリュウが、そう鋭く斬り込んできました。


 そうです。そこがホーリーが一番ひっかかっているところなのです。


 なぜ、人間をおびき寄せているこのタイミングで、他の部族の巣を襲うのか。


 このタイミングで襲わねばならない理由があるはずです。


 彼らもさすがに人間がこれほど早くこの地に侵入しているとは思っていないはずです。


 人間が襲撃に来る前にしておきたいこと……。


 ホーリーの頭の中に先ほどの、待ち伏せのシーンが再生されました。


 巨大蟻アントは待ち伏せをよく戦法として活用するとも聞きました。


 おそらくケリーも囮です。その周辺には無数の兵隊蟻が待ち構えているはずなのです。


 それがなぜ5万もの兵隊蟻を巣から出してしまったのか。


 逆に手薄にしてしまっています。


 トリミング王国の地下で一万の巨大蟻アントが瞬時に壊滅されて、敵の強さは充分に承知しているはずなのに……。


 そう考えていくと、ホーリーの導いた答えはひとつでした。


 おそらくこの時点でヒューイも同じ答えにいきついていたことでしょう。


 「ここは僕を信じて、シグラリ族の蟻塚に向かってもらえませんか」


 「私もそれが一番の得策だと考えます」


 ホーリーとヒューイの意見に反論するものはもういませんでした。


メリークリスマスです!!!

明日も午前3時に更新しますよー!!!

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