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第1章 13・女王蟻(クイーン)

第1章 13・女王蟻クイーン


 ホーリーが駆けだしました。巨大蟻アントの群れを追うわけではなく、待ち伏せによるガミジン族とシグラリ族の戦闘が繰り広げられた場所を目指してです。

 事情はわからぬもののウィン姫も愛犬ナターシャを連れてホーリーの後に続きます。


 重傷を負った巨大蟻アントや首を落とされて絶命しているもの、そんな中でかすかな悲鳴をあげて悶えているシグラリ族の子どもの姿がありました。腹を杭で串刺しにされて、地面に縫い付けられています。


 「かわいそうだが、助かる見込みもあるまい。ひとおもいにとどめを刺してやる」

そう言ってウィン姫が銀の剣を抜き、子ども蟻の首に目標を定めて振り上げます。


 「大丈夫です。助かります」

ホーリーはウィン姫の前に出ると、座り込んで子ども蟻の顔を覗き込みました。


 ギギギギギ……


 威嚇するような声をあげ、鋭い歯のついたあごを振ります。


 「誰かこの杭を抜けませんか」

ホーリーはかなり後ろで見守っている巨人バスケスに向けてそうお願いをしました。

 バスケスは表情一つ変えず無言です。


 【ホーリー様の会話可能範囲に巨人族は未だ含まれておりません】


 マリエッタの声が頭の中に響きます。


 「俺がやってみよう」

漆黒の甲冑姿のキリュウが歩み寄ってきました。巨大な剣を地面に置き、杭を一気に引き抜きます。巨大蟻アントの青い血が噴き出して辺りを濡らします。


 「で、どうするのだ?まさに虫の息。数分後には息絶えるぞ」

ウィン姫もホーリーの隣に座り込んで尋ねました。どんな魔法を使うのかと興味津々です。


 ホーリーは粉末を子ども蟻の穴の開いた腹にかけました。開いた口にも投げ込みます。


 「TORというラパマイシン標的タンパクを超活性化する医療薬です。死んでいる巨大蟻アントには効果がありませんが、重い傷もこれで治癒できます」

「ラパ……タン?何だそれは聞いたことがない。裸足の魔導士だけが使える魔法か?」

「まあ、そんな感じですけど。もう僕は裸足ではないので、ちゃんと靴を借りて履いてますから、裸足裸足って呼ばないでもらえますか。僕の名前はホーリーです。何度も言ってるでしょ」

「細かいことをこだわるな。それより見よ。傷口がみるみるうちに塞がっていくぞ」


 ホーリーとウィン姫がやりとりしている間に、子ども蟻はどんどん元気を取り戻していっています。腹の穴は塞がり、動かなかった後ろ足もふんばりがきくようになってきました。目に生気が宿ってきています。


 「凄い効果の魔法ですね。でも、何か身体からだがふた回りぐらい大きくなっていっているような気がしますが……」

王国軍将校のラムサスが感心しながらも、幾分慌てています。確かに身体がどんどん大きくなり、羽も生えてきました。


 (マリエッタ、傷は治ったけど、姿も変貌してきたよ。どういうこと?)


 【TORを強く活性化するとまれに女王蟻クイーンに変貌するケースもあるようですね。なにせこの医療薬を巨大蟻アントに処方するのは初めてで前例がないのです】


 (女王蟻クイーンに変貌……)


 子ども蟻は完全に復活しています。大きさはガミジン族と同じくらいまで成長していました。あごはチェーンソーのようですし、手足は木の幹のようになっています。そして身体と同じくらいある巨大な羽。


 ギギギギギギ……


 先ほどとは比べものにならないほど威圧的な咆哮をあげます。


 キリュウが巨大な剣を持ち上げ構えます。ウィン姫も笑みを浮かべて剣を抜きました。ヨークも背後から弓を引いています。


 殺気みなぎる雰囲気のなかで、ホーリーが女王蟻クイーンに歩み寄りました。


 「馬鹿が、かみ殺されるぞ」

ウィン姫が叫びます。ナターシャは牙を剥いて、いつでも女王蟻クイーンに襲い掛かれる態勢です。


 女王蟻クイーンは警戒して羽を鳴らします。

 それでもホーリーは深く呼吸をしながらゆっくりと女王蟻クイーンに近づいていきます。


 手が触れる距離まできました。

 女王蟻クイーンがその気になれば一瞬でホーリーの首は両断される位置です。


 「僕たちはキミたちの敵じゃない。僕たちはキミのようにガミジン族に囚われている仲間を助けたいんだ」

ホーリーはそう言いました。

 女王蟻クイーンはじっとホーリーを見つめています。


 【ホーリー様、巨大蟻アントには人間の声は聴きとれません】


 「わかってる。感情が……想いが伝わればそれでいい」

ホーリーの右手が女王蟻クイーンに触れます。女王蟻クイーンが少しだけビクリと反応しました。


 他のメンバーは息を飲んでふたりのやり取りを見守っています。


 と、女王蟻クイーンが頭を下げました。


 「驚いた。服従の証ですね……」

やせっぽっちのヒューイの言葉を聞いて、ウィン姫が、

「馬鹿な。巨大昆虫ムシが人間に服従するなどありえぬ話だ」


 「いや、そうでもないようですぞ。百年前に命をかけて巨大昆虫ムシと心を通わせ、互いの種族の和睦を成功させたものがいたと聞いたことがあります」

ヤンがそう答えました。


 「凄い!さすが伝説の魔導士だ!!」

少年ノエルははしゃいで大喜びです。巨人のバスケスも驚いた表情をしています。


 「さっ、他の息のある巨大蟻アントにも粉末をかけてあげましょう」

ホーリーは極度の緊張から解放され、ホッとした表情でみんなに呼びかけました。



 一方そのころ、ガミジン族の蟻塚からは、五万の兵隊蟻がシグラリ族の蟻塚征服の機会とふんで出撃していました。


メリークリスマスです!!

明日も午前3時によろしくお願いいたします。

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