第1章 9・蟻の巣までの道のり
第1章 9・蟻の巣までの道のり
トリミング王国の地下下水道地帯を進んでいくと、突如大きな横穴が出現しました。熊一頭が余裕で出入りできる大きさです。ここから巨大蟻の群れが侵入してきたのは間違いありません。
「ここからどのくらい歩けば巨大蟻の巣に辿り着けるのです?」
ホーリーの背後から王国軍将校のラムサスがそう問いかけました。彼は誰に対しても物腰が柔らかく、相手を敬うことができる人なので、ホーリーも安心して会話ができます。
「そうですね……地図によると、この速度で歩いていくと三日ほどで到着できる予定です」
ホーリーがそう答えると、後ろの連中からどよめきが起こります。
「シャナム国が爆炎に晒されてから、半日の期間で巨大蟻たちが掘り進めてきた穴を通るのに、どうして三日もかかるんだい」
ヨークが煙草の煙を吐きながら尋ねます。
「一万匹以上の巨大蟻が猛烈な勢いで掘り進めてきた道なのじゃ、果たしてどれほどの距離があるのか……巨大蟻の国まで地上の道を通っても150㎞以上はあるのだぞ」
黒風党の頭領ヤンが冷静にそう告げました。
一行は静寂に包まれます。
徒歩で150㎞の道のりを三日で踏破するには、一睡もせずに歩き続ける必要があるのです。そうなるともはや巨大蟻の群れと戦う体力は残っていないでしょう。
(マリエッタ、聞こえるかい?)
ホーリーが頭の中でマリエッタを呼びます。ワイヤレス機能で直接声を発しなくても会話できることが判明していました。
【お呼びですかご主人様】
(道具の召喚ターンまであと何時間必要?)
【2時間後になります】
(2時間か……道具を召喚して、みんなを一瞬で蟻の巣まで運ぶことは可能?)
【はい。34通りの手段がございます】
(そんなにあるんだ。一番手っ取り早いのはどんな方法?)
【ワープ機能搭載の四輪自動車があります。大・中・小とありますが、この通路の幅を考慮すると小型ですね】
(軽自動車みたいな感じかな。何人乗れるんだい?)
【大型で450人、中型で200人です。小型だとMAX50人は乗車可能です】
(小型でもそんなに乗れるんだ……凄いね。で、どのくらいの時間で到着できるの?)
【全員が搭乗してから8秒ほどです】
(8秒!本当に一瞬だね。2時間以内にケリーさんを救出できれば、その車に乗って戻ってくることも可能ってこと?)
【はい。バージョンアップによって召喚ターンが2時間に延長になっていますので】
(よーし!じゃあ希望が見えてきたぞ。巣についたらもうひとつ道具を召喚して、一気に巨大蟻を撃退して、ケリーさんを救出。すぐに車に乗って帰宅。これだと召喚する道具は2つで済むね)
【計画通りに進めばそうですね】
「みなさん、ここで2時間の休憩をとります。2時間後、一気に蟻の巣まで進みますので戦闘準備を整えておいてください」
ホーリーが力強くそう宣言しました。
「一気に進むとは、なにか近道のようなものを発見されたのですか」
ラムサスが問うと、ホーリーが答える前にウィン姫がでしゃばってきて、
「魔法の力に決まっておろう。高位の魔導士は、旅人が十日かかる道のりをわずか1時間で進めると聞いたことがある。伝説の裸足の魔導士にかかれば、全員を瞬きしている間にゴールまで運んでしまうことなど容易なことだ」
細かい話をすると面倒なことになりそうなので、ホーリーはウィン姫の自信満々の説明にうなずいて同意しました。
「で、巣についた後はどうする?まともに二十万匹の巨大蟻を相手にするつもりではあるまい。一体どのような魔法を使うつもりだ」
ウィン姫は嬉しそうにホーリーに問いただします。
「巣は確かに入り組んでいますが、繋がっていることは確かですから、殺虫用のガスを使用するつもりです。エアゾール殺虫剤というもので、人間に対してまったくの無害とはいきませんが、死に至ることはありません。でも、できるだけガスを吸わないようマスクをするなり、鼻と口を覆うなりしてください。巣にいる巨大蟻はこれで一網打尽です」
前回の戦闘で効果は折り紙付きですから、ホーリーは自信をもってみんなにそう伝えました。
「その間にケリーを探して引き上げるっていう寸法か……随分と楽な仕事だな」
漆黒の甲冑姿のキリュウの言葉にみんながうなずきました。
「巨大蟻の巣の奥には超レアな宝がたくさん隠されてるっていう話だよ」
少年のノエルが興奮気味にそう言うと、ヨークも賛同して、
「ものはついで、って言うことわざもあるからね。いいんじゃない。組織を運営していく軍資金にもなるし」
それを聞いて王国軍のラムサスは困惑した表情でしたが、反論はしませんでした。
「巣の奥地には女王蟻がいます。そこだけは絶対に踏み込まない方がいいと思いますよ。恐ろしい魔力をもっていますからその殺虫剤を無効にすることも可能かもしれません。怒らせるととんでもないことになりますし」
やせっぽっちのヒューイがそう忠告します。ヒューイはこれでも黒風党の参謀役なのです。地位としては一味のNO2ということになります。
「ほう。女王蟻はそこまで強いのか。それは楽しみだ」
ウィン姫はそう独り言をつぶやきながら、愛犬ナターシャの頭を撫でています。
それぞれの思惑を胸に、時刻は約束の2時間が経過しようとしておりました。
果たしてホーリーのたてた作戦通りにいくのでしょうか。
明日も3時に更新、頑張ります!!応援よろしくお願いいたします!!




