序章 13・黒き破壊者キリュウ・アルドイッヒ
序章 13・黒き破壊者キリュウ・アルドイッヒ
「……暴・獅・滅・子・刃……くらえ!!爆裂獅子牙斬!!!」
夜の闇にウィン姫の銀の剣が輝きます。
魔力を帯びた剣の波動が、足元の砂塵を巻き上げました。
(えーと、えーと、うわー、何を召喚すればいいんだ!!)
ホーリーは頭の中が真っ白です。
【時間切れです。もう間に合いません】
マリエッタの冷静な声と、ウィン姫が閃光とともにホーリーに撃ち込んできたのは、ほぼ同時でした。
「うわにゃー!!!」
意味のわからぬ悲鳴をあげながら、ホーリーは両手をあげました。
爆裂とともに斬られて死んだ。
観ていたケリーの目にはそう映りました。
爆裂による白煙が晴れたとき、予想に反した状況にケリーは驚きました。
ウィン姫の剣を受け止めているのです。
標的の男ではありません。
標的の裸足の男は、両手をあげて白目をむいています。
その目前で、剣の刃を合わせているのは別の大柄な男でした。
ウィン姫の身体ほどもある巨大な剣で、魔法剣士マスターの渾身の一撃を受け止めているのです。
「お前は、確か国王に呼ばれて来た吸血鬼狩人だったな。肝心の吸血鬼の襲来に出てこずに、こんなところになぜぬけぬけと現れた?」
絶対の自信を込めた一撃だっただけに、無傷で受け止められて動揺しているのか、ウィン姫の声が幾分震えています。
ケリーも大柄な男には見覚えがありました。
国外から集まった数十名の吸血鬼狩人の中で、最も腕がたつだろうと目していた男です。
兜はつけず、黒髪の短髪。精悍な顔立ちには髭はありません。歳は27ぐらいでしょうか。
表情は若いですが、感じさせる雰囲気は歴戦の勇、そのものです。
漆黒の甲冑姿。マントまで黒く、夜の闇に溶け込んでいました。
名前は、キリュウ。
キリュウ・アルドイッヒ。
仕留めた不死者の数は百を超えると言われています。
黒き破壊者という意味の【ブラバス】という異名を持っています。
「悪いがコイツは俺の獲物でね。いただいていく」
キリュウが悪びれもせずにそう宣言しました。
どうやらキリュウは言い伝えを知っているようです。
おそらく初めから吸血鬼狩りに来たわけではないのでしょう。
「面白い。できるものならば腕づくで持っていくがよい」
そう言うと、目にもとまらぬ斬撃をウィン姫は繰り出します。
キリュウはそれを軽く受け流すと、一転、今度は攻撃に転じます。
巨大な剣が唸りをあげてウィン姫に襲い掛かりました。
剣で受け止めようものなら、そのまま身体ごと両断されるほどの威力を秘めた剣撃。しかも軽々と大剣を操っています。
ウィン姫は紙一重で避けながら、攻撃に転じる隙をうかがいますが、怒涛の斬撃に防戦一方です。
「……爆穿弾!」
わずかな詠唱でウィン姫が爆裂の呪文を唱えました。
甲冑を穿つぐらいの威力のある呪文ですが、大剣の剣圧で威力を殺されています。まるで効果がありません。
ウィン姫は宙を蹴ってクルクルと夜空を回ると、大きく後退しました。
猪突猛進のウィン姫にとっては珍しいことです。
それだけ手強い敵だということでしょう。
「さすが噂のじゃじゃ馬姫、身も軽いし、剣撃・術撃も見事。なまじの吸血鬼では手も出せんな。相手をしてやりたいところだが、邪魔者がそろそろ到着する頃合いだ。ここまでにさせてもらおうか」
「なんだと……」
「お連れさんの淑女にも申し訳ないが、一歩も動かずにいてもらおう」
気づくと弓を弾いてケリーに狙いを定めている男がいました。
距離にしてわずか10歩。ここまで接近されて気配に気づかなかったのは初めてのことです。おそらく並大抵の腕前ではないでしょう。
「何者だ、お前たちは」
ウィン姫が悔し気にそう尋ねます。
気が付くとさらに巨大な男が、言い伝えの裸足の男を抱えています。
その足元には小さな少年が、猫のように辺りをうかがっていました。
総勢4名。
吸血鬼狩人として見たことのあるのはキリュウだけです。あとの3人は事前に街に潜り込んでいた間者でしょう。
「俺たちは【黒風党】の一味だ。次、会ったときは真っ向から勝負してやる。まあ、そのときは動ける格好をしておけよ」
キリュウがそう言うと、ウィン姫は自分の格好を顧みました。
眠るとき用の白いドレスに、舞踏用の靴。
強敵相手にするには万全の装備とは言えません。
「よかろう。次に会ったときにはその首はねて晒してくれる」
「楽しみにしてるよ、お姫さん……」
キリュウの言葉を残して、4人は夜の闇に消えていきました。
「姫様、お怪我はありませんか」
ケリーが駆けつけるとウィン姫はさっさと帰り支度で、
「お前の手の者を放って所在を見つけ出せ」
「承知いたしました」
ケリーはウィン姫の護衛の侍女であると同時に忍者マスターです。忍びの手下を数十名雇っています。
「おお、姫様、このような場所に。心配しましたぞ」
そこに兵を引き連れたハンニバル将軍が現れました。
そのときにはもう、ケリーの姿はすでにそこにはありませんでした。
明日も午前3時に更新します!!
ご感想、ブックマークお待ちしてます!!




