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序章 10・ウィン姫と吸血鬼(ヴァンパイア)

序章 10・ウィン姫と吸血鬼ヴァンパイア


 ここは、人間による政治・統治が行われている「ギミリスト連合国」に加盟しているトリミング王国。人口は3万8千。


 街全体が外敵からの襲撃を防ぐために作られた外壁に囲まれています。


 王が住む城はその中心に位置します。


 その城の一角に、トリミング王の娘、すなわち「お姫様」の部屋があります。


 一人娘のために王が割いた護衛の数は20名。


 最新の甲冑に身を包んだ20名の屈強の王国騎士が、絶えず姫の部屋のドアの前で防備を固めていました。


 何を警戒しているかと言うと、実は、姫の誘拐予告状が届いていたからです。


 送り主は、こともあろうに不死族の中でも最も魔力が強い「吸血鬼ヴァンパイア」です。


 吸血鬼ヴァンパイアの王族に名を連ねる「ドット・フォン・ヘルツォーク二世」という男からでした。


 姿や年齢、実力のほども未知数ですが、吸血鬼ヴァンパイアである以上は強敵に違いありません。


 過去には10匹の吸血鬼ヴァンパイアによって、ひとつの都市が壊滅させられたこともあるぐらいです。


 トリミング王は外壁の守備兵の数を倍にし、城内に配備されている騎士の数も増員しました。姫の護衛に20名の騎士を張り付かせるとともに、国外からも広く「ヴァンパイアキラー」を呼び寄せ、万全の守りを固めています。


 

 そんな深刻な状況の渦中にいる姫「ウィン・ド・トリミング」の部屋では、夜半だというのに会話がひっきり無しに続いています。


 「婆やの予言の通りだな。東の空が火に染まった色をしている」

ウィン姫は東向きの窓から外を眺めながら興奮気味にそう言いました。


 「姫様、いくら強化ガラスの窓とはいえ、危のうございますので、もう離れて、ベットでお休みください」

侍女のケリーが必死になだめますが、ウィン姫は一向に言うことをきこうとしません。


 「ケリー、お前も聞いておろう。大きな月の出る夜に東の空が火に染まるとき、神に匹敵する4人が現れて世界を恐怖と混沌に陥れる。何百年前も昔から言い伝えられてきた予言だ。それが今晩のことだったのだ。凄いな。あの言い伝えが本当だったとは」


 14歳のウィン姫は窓ぶちから軽快に飛び降りると、部屋の外まで聞こえるような大きな声を出してそう言いました。


 まあ、この姫が騒ぎ出すのはいつものことなので、ドアの外にいる騎士たちも特別な反応はしません。


 なにせ、ウィン姫のじゃじゃ馬ぶりは国外まで知れ渡っているほどです。


 街では密かに「吸血鬼ヴァンパイアくらいしか夫の貰い手はいないのでは」などと陰口を叩かれてもいます。


 「確かに言い伝えの通りでございますが、今は姫様の御身が危機に晒されているときですよ。外の世界がどうのと言っている場合ではございません」


 侍女のケリーは25歳。ウィン姫が赤ん坊のころから傅役もりやくに選ばれたような器量よしです。知性と美貌、そして勇気を兼ね備えています。


 暴れん坊のウィン姫も、ケリーのことは姉と慕って、だいたいの指示には黙って従います。


 「ケリーはわかってないな。言い伝えが真実であるならば、その4人のひとりが、このトリミング王国に来るのだぞ。その男は、非情なる虐殺を繰り返す裸足の魔導士だそうだ。私はぜひその男に会いたい!」


 今晩のウィン姫はことのほか手ごわく、ケリーもほとほと手を焼いております。


 すると、ドアの外から、


 「曲者じゃ!!皆の者、曲者じゃ!!」


 騎士たちの喧騒とともに、何かが吹き飛び、壁に激突する音が低く響いてきます。


 「一斉にかかれ!賊はわずかに3人だ!王国騎士の名に懸けて討ち漏らすな!」


 激しい戦闘が繰り広げられている様子です。



 「姫様、お下がりください」

ケリーがウィン姫の前に立ち、短刀を構えます。



 鍵がかかっていたはずのドアが静かに開きました。


 影が3つ、するりと室内に入ってきます。



 「お休みのところを失礼いたします。我らはドット・フォン・ヘルツォーク二世様の眷属にございます。今晩は、ウィン姫をお連れするよう申し付けられております」


 若い姿の男が2人と女が1人。


 おそらく3人とも吸血鬼ヴァンパイアです。20人の騎士と戦ったのにわずかに息を乱しているだけでした。


 全員が素手でした。


 「姫様、吸血鬼ヴァンパイアです」


 「で、あろうな」

ケリーの言葉にウィン姫は楽し気に答えます。


 「傷つけず連れてくるよう申し付けられております。大人しく我らに従いください」

男のひとりがそう言って、ずかずかと近寄ってきました。

 

 ケリーの身体からだがフッと消えたかと思うと、その男の右腕を斬り落としていました。


 「ほう、さすがは姫直属の護衛だな。吸血鬼ヴァンパイアの腕を簡単に斬り捨てるとは……」

もうひとりの男が感心したようにそう漏らしました。


 ケリーはまたいつの間にかウィン姫の前に立ち短刀を構えます。


 「ケリー、お前ひとりで吸血鬼ヴァンパイア3人はきついだろう。悪いが私も参戦させてもらうぞ」


 ウィン姫はいつも間にか銀の剣を握りしめて構えています。


 ケリーの短刀も銀で加工されたものです。


 吸血鬼ヴァンパイアには銀が有効なのです。


 「姫様」


 「なんだ。止めるなよケリー、我が部屋へ土足で踏み入ったこいつらに思い知らせてやらねば私の気が済まぬ」


 「お止めはしませんが、やり過ぎには注意を。国王に叱られます」


 「国王ちちうえなど後でどうとでも言いくるめられるから気にするな。いいか、これはチャンスだ。邪魔な騎士たちはやられている。こいつらとの戦闘の隙に外に出るぞ。そして言い伝えの男に会うのじゃ」


 ウィン姫はそう言うと、ケリーの答えなど待つこともなく、吸血鬼ヴァンパイアめがけて踏み込んでいくのでした。



明日も午前3時更新予定です。

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