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序章 1・カーナビ

序章 1・カーナビ


 秋空は高く、まばらに散らばる夕暮れの雲の下を青い車が一台走っています。

 4人の青年たちが乗車しているその車は、あるペンションを目指していました。


 運転手の名前は「ホーリー」。助手席には「ラン」。後部座席には「グリフ」と「バイミシャーク」。

 全員が18歳の高校生です。


 みな親しい友人同士ですが、誰ひとり口を開く者がおらず、車内の空気は重くなる一方でした。

 と、いうのも、この4人と同じ高校に通っていた友人が先日亡くなったからです。

 「ドナ」という名前のその友人は、ミス・キャンパスに選ばれるほどの美人で、4人の誰もが彼女に夢中でした。


 本来であれば、今回の旅行も、彼女を含めた5人で行くはずだったのに……。


 誰もがそんな感傷に浸っています。


 「この道で本当にあってるのかな?」

ハンドルを握るホーリーは気が弱く、いつも判断を他人任せです。今回も一方的に運転手を任されたものの、道順については不安でいっぱいでした。


 「そんなもの、カーナビを見ていればわかるだろうが!」

後部座席からバイミシャークの怒号に近い声が飛びます。彼は大柄で力が強く、誰に対してもいつも威圧的でした。


 「ああ、そうだね……」

ホーリーはため息をつきながら、弱々しくそう答えました。


 「あれ、ペンションの名前ってこれであってたっけ?なんか違うような……」

そう声をあげたのは助手席のランです。4人のなかで一番明るく楽天的な性格で、学校でも一番の人気者。それでもドナの死のダメージが強く残っていて表情も声も、いつもよりも硬くなっています。


 「確か、銀世界っていう名前のペンションだったはずだけども」

答えたのは後部座席のグリフです。学校一の秀才で、プライドも人一倍高いことで有名です。指摘することはいつも的確でした。


 「これ、カーナビの登録が異世界ってなってるよ。全然違う場所を目指してるんじゃないの?」

ランが少しだけ笑いながらそう言いました。


 ホーリーは首をかしげて、

「いや、だって……この目的地を設定したのはドナだよ」


 その名前を聞いて、他の3人が敏感に反応しました。


 「ホーリー、それはどういうことだ。この車のカーナビに先週から目的地を入力していたのか?」

グリフの声がいつもより震えているのがわかりました。


 「ああ、間違いないよ。そこからいじってないから。僕はその設定を変えずに目的地の決定ボタンを押したんだ」


 「じゃあ、単純にドナが間違えたのかな?」

寂しげにランがそう言うと、バイミシャークが、

「面白い。そのままその目的に向かえよ、ホーリー」


 「だって、異世界だよ。そんなペンションあるの?全然違う店や場所に着いちゃうよ」

ホーリーが困ったように答えると、グリフが、

「目的地まであと45㎞か……かなり山奥だな。そんな場所に店など開かないだろう。むしろ宿泊施設の可能性の方が高いな」


 「……そうだね。ドナがせっかく設定してくれた場所なんだから。行ってみようよ、ホーリー」

ランが明るくそう言うと、ホーリーも渋々うなずきました。


 そこからはまた無言のドライブが続きます。


 車はどんどんと山奥に入っていきました。すれ違う車さえありません。


 「電波が届いてないな。スマホは使えないか……」

グリフの話を聞いて、全員が自分のスマホを確認します。


 電話もネットも使えません。


 「こんな場所も未だにあるんだね」

ランは別に困った様子も見せずに笑いました。


 「あと3㎞か……」

ホーリーはカーナビの画面に映る目的地までの距離を見て呟きます。


 夜が訪れ、辺りはもうすっかり暗くなってきていました。


 見渡す限りの緑の景色は薄暗く、うねって伸びた木々や生い茂る草にも夜の影が強くなっています。


 人が生活している気配はなく、道路も砂利道が続いています。看板すらしばらく見ていません。


 「あと300mだよ」

ホーリーの言葉を聞いて、残りの3人が辺りを見渡します。


 それらしき建築物が見えてもおかしくない距離ですが何も見つけられません。


 「あと100m……」


 空すらも木々に遮られた闇の世界です。


 「あと50m……」


 誰も暗闇の中に光を見出せません。


 「あと10m……」


 ヘッドライトで照らしている先すら深い暗闇でよく確認できません。


 「どうする、止まる?」

ホーリーが不安げにそう尋ねますが、バイミシャークは苛立ち気味に、

「とにかく目的地まで行ってみろ。そこで止まって探せばいいだろうが」


 誰も反論はしません。こういうときのバイミシャークに逆らうと面倒くさくなることをみんな知っているからです。


 「あと5m……直進だよ……」


 闇……そこには闇しかありません。


 「あと1m……」


 そして車が大きく傾きました。


 そこにはもう道はなかったのです。


 ライトが照らしたのは、遥か眼下の谷底でした。



 【目的地に到着しました。エコ運転お疲れさまでした】



 落ちていく車内で、カーナビの声だけが響いていました。


毎日午前3時を目標に更新していきます!

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