教皇様、村の若者と拳で語り合う4
「ふう」
アグラダは地面に倒れる五人の若者をぐるりと見回し、息を吐き出した。
五人の若者は地面に倒れ、うんうんと唸っている。
少しやり過ぎてしまったかと心配したアグラダだったが、若者の首領格、アレナスが起き上がったことで、やり過ぎではなかったことに安堵した。
「て、てめえ、ひ弱そうなふりして」
アレナスが悪態をつく。
アグラダはかろうじて立っているアレナスを一瞥する。
「華南や鈴牙国の武術を習えば、体格や性別で人を判断できないことがわかる。小柄な女性でも鍛錬を積めば、自分の身の丈の倍はある大男を投げ飛ばすこともできる」
淡々と応じる。
アレナスはまだ納得していないという表情でアグラダを睨んでいる。
「汚ねえぞ、てめえ! 司祭のくせに」
無茶苦茶な理屈をこねる。
アグラダはそんなアレナスに対して肩をすくめる。
「汚くてけっこう。大人の世界は大なり小なり汚いものだよ。君も大人になって社会に出て見ればわかるが、世の中は君たちの理屈が通用するほど甘くはない」
アグラダの青い瞳に冷たい光が宿る。
その光は、見ていた者たちをぞっとさせた。
起き上がりかけていた若者たちは思わず黙り込む。
アグラダは若者たち五人をぐるりと見回す。
「さて、と。これから君たちが今まで迷惑をかけた村の人たちのところに行くから、彼らを連れて君も来なさい。わたしも一緒に謝りに行こう」
アレナスは目を向く。
「な、何でおれが」
「い・く・ん・だ」
アグラダは鋭い視線を向ける。
その青い眼差しに射すくめられ、アレナスは言葉を失う。
アグラダは有無を言わせぬ低い声でつぶやく。
「君も来るんだ。まだ村人たちに許してもらえるうちに。後戻りができるうちに。そうしないと、いずれ後戻りが出来なくなる。最悪の事態になってしまうかもしれない」
その声には、どこか後悔しているような響きがあった。
アレナスは不承不承うなずく。
「わ、わかったよ。行きゃあいいんだろ、行きゃあ」
アレナスの返事を聞いて、アグラダは満足してうなずく。
「わたしもこの村のことを思う一介の司祭だからね。諍いも訴訟もなく村人が穏やかに暮らせることを強く願っているからね」
アグラダは地面に倒れている他の若者を助け起こし、丘のふもとにある村の家々へと連れて行った。




