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教皇様の千年日記  作者: 深江 碧
四章 教皇様、村の若者と拳で語り合う
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教皇様、村の若者と拳で語り合う3

留守番役の老司祭は教会の中から、教皇と若者たちとのやり取りを不安な表情で眺めていた。

 いくら教皇が長年生きている法術の達人と言っても、相手は血気盛んな若者五人だ。

 多勢に無勢でいくらなんでも敵うわけない。

 しかも今日は運の悪いことに、お目付け役のイヴン大司祭や護衛の衛兵がすぐそばにいない。

 もし万一教皇の身に何かあったら一大事だ。

 留守番役の老司祭は、教会の中で外の物音に耳を澄ませていた。

 だからといって文弱の自分に何かできる訳ではない。

 こんなことなら多少なりとも武術を習っておけばよかった。

 護衛の騎士を一人同行させておけばよかった。

 あの五人の若者を回心させられなかった自分には、黙って見守っていることしかできない。

 もしも教皇の身に何かあったら、老い先短い自分はどう責任を取ればいいのだろう。

「天空神ラスティエよ。どうか教皇様をお守りください」

 今は天に祈ることしかできない。

 教皇が痛めつけられる様を見ているのが忍びなく、留守番役の司祭は玄関の扉の隅で震えながら祈りの言葉を口にする。

「うわっ!」

「ぎゃあ!」

「ぐえっ!」

 扉の外から悲鳴が聞こえる。

 それを若者たちに痛めつけられている教皇の悲鳴だと思った留守番役の司祭は、絶望的な気持ちになった。

「あぁ、天空神ラスティエよ。どうかどうか教皇様の御身をお守りください。教皇様はラスティエ教国に必要なお方です。どうか命ばかりはお助け下さい」

 ぶるぶると震えながら、留守番役の司祭は修道院の天井近くから差し込んでくる光を見上げ、天に祈った。

 しばらくして外がしんと静まり返る。

 若者が教皇を痛めつけるのに飽きたのだろうか。

 留守番役の司祭は開かれた扉の隙間から、そろそろと外の様子をうかがう。

 教皇が血まみれで地面に倒れている姿を想像しながら、司祭は意を決して外をのぞく。

驚きに目を見張る。

 修道院の外では司祭が想像していたのとは逆の光景があった。

 すなわち教皇が地面に倒れ五人の若者に取り囲まれているのではなく、五人の若者が地面に倒れ、教皇一人が無傷で悠然と立ち尽くしている光景だった。

 留守番役の老司祭はその光景を信じられない気持ちで食い入るように眺めている。

「ま、まさか、そんな。これは天空神ラスティエの起こした奇跡か?」

 老司祭はごしごしと目をこする。

 簡素な修道服に身を包み、銀の髪を一本でくくり、教皇はまるで何事もなかったかのように悠然とその場に一人で立っていた。

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