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教皇様の千年日記  作者: 深江 碧
四章 教皇様、村の若者と拳で語り合う
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教皇様、村の若者と拳で語り合う2

 アグラダはうんざりしたように尋ねる。

 村の若者五人を取りまとめるアレナスに目を向ける。

「用がなきゃ、呼んじゃいけないのかよ? ええ、司祭さま」

 アレナスは大股でアグラダに歩み寄り、その胸倉を乱暴につかむ。

「前からてめえが気に入らねえと思ってたんだよ。司祭だか何だか知らねえが、俺達に偉そうに説教してんじゃねえよ!」

 胸倉をつかまれ揺さぶられるたアグラダは平然としている。

「そもそも説教をするのが、司祭の仕事なんだが」

 それが聖職者としての仕事なのだから、それをするな、と彼らに言われては、教皇であるアグラダは一体何をすればいいのだろうか。

 説教をしない聖職者など、ただの無駄飯食らいになってしまう。

「それよりも、君たちの方こそ、夜中に騒いだり、畑にごみを捨てたりと、村の大人たちを困らせているそうだね? 人を困らせるのはいけないことだと、自覚しているのかい?」

 反対に聞き返す。

 アグラダの胸倉をつかんでいるアレナスの代わりに別の若者が答える。

「あぁ? だったら、何だよ」

 啖呵を切る若者に対して、アグラダは淡々と話す。

「それが他の村人たちに迷惑をかけていると、自覚しているか? それは悪いことなんだぞ? ちょっと考えればわかることだろう?」

 胸倉をつかまれ、若者に取り囲まれても動じないアグラダに、若者たちは苛立たしげに怒鳴る。

「何だてめえ。司祭だからって偉そうに!」

「アレナス、そんな司祭やっちまえ!」

 周囲からの声に、アグラダが応じる。

「恨むなら、てめえが司祭なのを恨むんだな」

 アグラダの胸倉をつかんでいるアレナスが拳を振り上げる。

 顔目がけて殴りかかる。

 アグラダは溜息一つ。

「やれやれ、若い者は血の気が多くていけないなあ。本当は暴力はいけないことなのに」

 長い間生きているアグラダは、こういった場面に遭遇することもたびたびだった。

そのためその対処法もよく知っていた。

 アグラダは胸倉をつかんでいるアレナスの手を片手でつかみ、するりと抜け出す。

あまり力をかけずにひねりあげる。

「いでででっ!」

 背中へと腕をひねりあげられたアレナスは悲鳴をあげる。

 すると周りで見ていた若者たちが血相を変える。

「てめえ、アレナスに何しやがる!」

 若者の一人がアグラダに殴りかかってくる。

 アグラダはその若者を視界の端に捕える。

 アレナスの背中を蹴り、素早くその若者に向き直る。

 アグラダは殴りかかってくる若者の拳を自然な動作で避ける。

「攻撃への動作が大きすぎる。そんなのでは、相手へ攻撃の隙を与えてしまうだけだぞ」

 避ける時に若者に足払いをかける。

「うわっ」

 殴りかかってきた若者は、アグラダに足を払われ地面に倒れる。

 周囲で見ていた三人の若者が怒鳴る。

「てめえ、調子に乗りやがって」

「司祭だと思って手加減すりゃ」

「やっちまえ」

 まるで三下のような台詞に、アグラダは吹き出しそうになる笑いを必死にこらえる。

「お心の広いラスティエ様のことだ。わたしが拳で若者に道を教えるのを、きっとお許しになるだろう。かの聖エンリケも、弟子に道を教えるために拳で語り合ったと言う話だ。これは暴力ではない。愛の鞭なのだ」

 半ば自分に言い聞かせるようにつぶやき、アグラダはいっせいに殴りかかってきた若者三人に向き合った。

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