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教皇様の千年日記  作者: 深江 碧
四章 教皇様、村の若者と拳で語り合う
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教皇様、村の若者と拳で語り合う1

「やっと帰って来られた~。久しぶり我が家」

 このところ首都セラフでずっと仕事をこなしていた教皇アグラダは、山の修道院に戻って来られたことを心の底から喜んだ。

 久しぶりに戻ってきた住み慣れた教会の扉の前に立っている。

 数か月の間留守にしたとは思えないほど、教会はその時のままだった。

 以前より庭の木々の枝がずいぶんと伸びているが、良く手入れもされて花壇には色とりどりの花が咲いている。

 季節は巡り、風は心地よく、虫たちの泣き声が草むらのあちこちから聞こえてくる。

「やっぱり、ここはいいなあ。心が安らぐよ」

 アグラダは上機嫌で、ゆっくりと大理石の階段を上がる。

「ただいま~」

細かな装飾の刻まれた見慣れた教会の扉を開ける。

 いつもアグラダがいない間は留守番役の司祭が修道院を管理し、アグラダの代わりに村人の相談に乗ったり、儀式を執り行っている。

 教会の扉を開けると、村人のための礼拝用の長椅子がいくつも並び、まっすぐな通路が祭壇まで続いている。

 教会の薄暗がりから老司祭の声が聞こえてくる。

「おかえりなさいませ、クリスティーノ様」

「あぁ、苦労を掛けたね、エイリウス」

 代理を務めていた老司祭は、今回も入れ違いに外に停泊している空船に乗って、首都のセラフに戻るはずだった。

 しかしいつもと違っていたのは、その司祭がひどく困ったような顔をして祭壇の前に座り込んでいたこと。

老司祭を取り囲むように、不機嫌そうな村の若者たちが礼拝の長椅子にもたれかかっていたことだった。

若者たちは教会の扉を開け放して立ち尽くしているアグラダをじっと睨んでいる。

「おう、帰って来たか」

 うれしくもない村の若者からの歓迎とも聞こえない不機嫌な声に、アグラダは帰ってきた喜びが急速になえていくのを感じた。

「お前が、クリスティーノとか言う司祭か?」

 クリスティーノとはアグラダが普段使っている偽名だった。

 地位もこの村では司祭ということになっている。

 アグラダは数人の村の若者たちを見て眉をひそめる。

「いかにも、わたしがクリスティーノだが」

 それは村でも何かと問題を起こす若者たちだった。

 村の鍛冶屋の息子、アレナスを筆頭として悪さをするので、村人たちはみんなこの若者たちに手を焼いていた。

 かく言うアグラダも、一度きつく灸をすえてやらなくてはと思っていたところだった。

「わたしに、何か用か?」

 アグラダは数人の若者に取り囲まれているにもかかわらず、いたって平然としている。

 千年近く生きているアグラダにとって、いまさら若者に取り囲まれたところであまり動じなかった。

 若者たちはじろじろとアグラダを眺める。

「村の大人たちは、みんなあんたのことを偉い司祭だと言っているが、ただのおっさんじゃねえか」

「大人たちは、何でこいつをありがたがっているのか、訳がわからねえ」

「このじじいだって、ちょっとおどせば、俺達をすんなりと教会の中に入れてくれたしなあ」

 留守番役の老司祭は怯えたようにアグラダに視線を送る。

「も、申し訳ありません。わ、私ではどうしても彼らを回心させることができなくて」

 悲痛な声で訴える。

「いや、エイリウスは悪くないよ。それよりもこんな苦労をかけてすまないな」

 老司祭にねぎらいの言葉をかけてやる。

 アグラダは小さく息を吐き出すと、ぐるりと若者たちを見回す。

「それで、わざわざ教会の中で帰りを待っていたと言うことは、わたしに何か用があるということだな?」

 教会の中に入る五人の若者を見回す。

 小さく溜息をつく。

「わたしはここに帰ってきたばかりで疲れているんだが、と言っても、きっと駄目だろうな」

 アグラダは青い目を細める。

「話なら、外で聞こう。あまり彼を怯えさせないでくれないか?」

 ただでさえこの辺境の村で、留守番役の司祭を代わってくれる人が少ないのだから。

 彼に逃げられてしまっては、アグラダもおちおちこの教会を留守にできなくなる。

 アグラダは怯えている司祭に空船の停泊している場所を教え、若者五人を教会の外へと連れ出す。

 教会の前の花壇の前で事情を聞く。

「それで、わたしに何の用だ?」

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