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教皇様の千年日記  作者: 深江 碧
三章、教皇様の昔語り
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教皇様の昔語り15

 結局は業を煮やしたカトリーヌが切り出す。

「あぁ、このそばの雲海の小島を根城とする空賊か」

「そうですわ。最近はこのカノッサの沖にも出没するようになって、ほとほと手を焼いております。わたくしたちの治める街のすぐそばに出没するなんて、これは喧嘩を売っているようにしか思えません。もし教皇様が他の三名家の当主の方たちを説得して下さるのであれば、わたくしすぐにでも軍を率いて討伐に向かいますわ」

 カトリーヌは静かな口調で話しているが、そのまなじりは吊り上っていた。

「か、かあさん、そんな軍を率いて討伐だなんて、物騒なこと」

 震えるジュリアーニが小声でささやく。

 すごい目でカトリーヌに睨まれる。

「空賊、か」

 アグラダはあごに手を当て、のんびりと考えている。

「それは、面白そうだな」

 ぽんと手を叩き、にっこりと笑う。

「どうだろう。ここはひとつ、その空賊の件はわたしに任せてくれないか?」

 イヴン、ジュリアーニをはじめ、カトリーヌまで奇妙な顔をする。

 一方のアグラダは笑顔で応じる。

「わたしに、良い考えがあるんだ」




 それから数か月後、カノッサの街の沿岸に空賊はぱったりと出なくなった。

 アグラダが何をしたのか、どんな方法で空賊たちを追い払ったのか、懐柔したのかは、誰も知らない。

 アグラダは笑って、

「これで、カノッサの街沿岸の住人も、ティワン沿岸の住人も、しばらくは安心して空船を出せることだろう」

 と言って、真相を話さなかった。

 カノッサ家当主のカトリーヌは呆れたように、

「まあ、教皇様のことですから、いつもの突拍子もない行動や考え方は、わたくしどもにはとても真似できるものではありませんわ」

 とつぶやいていた。

 アグラダはまたいつものラスティエ教国の辺境の山の上にある教会に戻り、静かに毎日を過ごしている。

 ある時、そば仕えのイヴンとお茶を飲みつつ話をした時、

「もしも隠居して教皇の座から退いたら、老後は空船に乗って空賊のように大空を自由に駆け巡るのも悪くないかもな」

 と、ぽつりとつぶやいたそうだ。

 イヴンは驚いてアグラダに問い返したが、アグラダは笑って応じるだけだった。

「あぁ、しかし、空賊の間にも厳しい上下関係があるからな。案外空賊も窮屈かもしれないな」

 本気か冗談かわからない口調で、アグラダはのんびりとお茶をすすっていた。

 教皇の執務室の窓から差し込む光は明るく、二人の囲むテーブルを明るく照らし出している。

 窓の外の空は晴れ渡り、陽射しは穏やかで、青空はどこまでも澄み渡っていた。

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