世界の終わり
世界の終わり
――THE WORLD ENDS TODAY
世界は今日終わる、そう書いたプラカードを持った男が昼の街を歩き回っていた。警官である私には秩序を守る義務がある。やれやれとは思いつつも、私はその男に近づいていった。
「THE WORLD ENDS TODAY!」
男は大声で叫んでいた。とにかくうるさい。この様子だと町中に響き渡っているかも知れない、と思わず大げさに考えてしまう程だ。私は更に近づき男の肩を掴み、言った。
「やめろ、町中が迷惑している。何のつもりだ?」
男は僧衣というのか長いゆったりとした布をまとい、足元はサンダル履き。おまけに髭が顔の下半分を覆っている。いかにもインチキ臭い預言者といった印象を受ける。
「神のお言葉だ」
やはりその類か。男はそれだけ言うと、再び大声で先程の言葉を繰り返し始めた。この距離で聞くと死んでしまうのではないだろうか。
「や・め・ろ!」
私はもう一度男に忠告した。しかし男はやめる気配を全く見せない。私は腰の拳銃を手に取り、威嚇の構えを見せた。だが男はこちらを一瞥することも無く、叫び続けている。
私は空に一発、銃を撃った。
男はやっと足を止めこちらを向いた。しかし銃に怯む様子は全くない。
「神の啓示を妨げるな、神のお言葉は絶対である」
「迷惑行為は条例で禁じられているんだぞ」
「神のお言葉だ」
私は頭をかきむしった。こういうタイプは何を言っても無駄だ。ひとつ小さなため息をつき、空に目をやった。すると、何かが自分に向かってくるのが見えた。看板だ! それだけわかると、私は押しつぶされてしまった。
薄れいく意識の中でわかったのはふたつだけだ。
ひとつは、威嚇で撃った弾が看板を落としたらしいこと。
もうひとつは、男の叫ぶ言葉の意味だ。
「THE WORLD ENDS TODAY!」
私の世界は次第に暗闇へと移ろいでいった。






