第8話 「四人目の候補と、すれ違いの予感」
この作品は登場人物が全員モブです。必ずモブ顔で想像してください。
ひよりが加入してから数日。
調理クラブの活動は、以前よりも賑やかになっていた。
「田辺さん、この生地の固さで大丈夫でしょうか?」
「うん、高杉くん、とてもいい感じだよ。」
「佐伯さん、こちらのボウルをお渡ししますね。」
「ありがとう・・・!」
三人で作業を分担しながら進める時間は、自然と笑顔が増えていった。
(仲間が増えるって・・・本当に素敵ですね)
壮真は、そう実感していた。
しかし、文化祭に出るためには、まだ二人足りない。
「あと二人・・・どうやって探しましょうか?」
真智が不安そうに呟く。
「そうですね・・・声をかけてみるしかありませんが・・・。」
「うぅ・・・緊張する・・・。」
そんなとき、ひよりがぽつりと言った。
「・・・一人、心当たりがあるかも」
「えっ、本当ですか?」
真智が目を丸くする。
「うん・・・同じ中学だった子で・・・料理が好きって言ってたから・・・声をかけてみようかなって・・・。」
「佐伯さん・・・ありがとうございます。とても助かります。」
「い、いえ・・・!私も、文化祭に出たいから・・・。」
ひよりは少し照れながら笑った。
翌日の放課後。
ひよりは、ある男子生徒を連れて家庭科室にやってきた。
「こ、この子・・・同じ中学だった、三浦 悠斗くん・・・。」
「ど、どうも・・・。」
悠斗は背が高く、少し無愛想に見えるが、何処でも見かける顔立ちである。
「三浦くん、料理が好きなんですか?」
真智が丁寧に尋ねると、悠斗は少し照れたように頭をかいた。
「まぁ・・・好きっていうか・・・家でよく作ってるだけだけど・・・。」
「すごいですね。男の人で料理が得意な方は珍しいと思います。」
壮真が言うと、悠斗は少しだけ目をそらした。
「・・・ひよりに聞いた。文化祭で料理出すって話、マジか?」
「はい。まだ人数が足りませんが・・・本気で実現させたいと思っています。」
「ふーん・・・。」
悠斗は家庭科室を見渡し、少し考え込んだ。
「・・・まぁ、悪くないかもな。俺も、誰かに食べてもらいたいって思ってたし。」
「じゃあ・・・!」
真智の声が弾む。
「入ってくれるんですか?」
「・・・ああ。よろしく頼む。」
「ありがとうございます、三浦さん。」
壮真が頭を下げると、悠斗は照れくさそうに鼻を鳴らした。
「そんなかしこまらなくていいって。」
四人になった調理クラブは、さらに活気づいた。
「悠斗くん、包丁の扱い上手だね・・・!」
ひよりが感心すると、悠斗は肩をすくめる。
「家で手伝ってただけだよ。」
「じゃあ、こちらの具材をお願いできますか?」
「おう、任せろ!」
真智は、そんな二人のやり取りを見て微笑んでいた。
しかし――
その横で、壮真は少しだけ胸がざわついていた。
(・・・三浦くん、料理が上手なんですね)
(田辺さんも・・・楽しそうだ)
もちろん、嫉妬なんてする理由はない。
ただ、胸の奥が少しだけ落ち着かない。
そんな自分に気づき、壮真は小さく息を吐いた。
(いけませんね・・・僕は何を考えているんでしょう)
活動が終わり、片付けをしているとき。
「高杉くん、今日・・・どうしたの?」
真智がそっと声をかけてきた。
「え・・・僕、何か変でしたか?」
「ううん。
でも・・・なんだか、少し元気がなかったように見えて・・・」
(・・・見られていたんですね)
壮真は、少しだけ迷ってから答えた。
「いえ・・・ただ、僕ができることが少ないなと感じまして。三浦くんは料理が上手ですし、佐伯さんもお菓子作りが得意で・・・僕だけ、取り柄がないような気がして。」
田辺さんは、驚いたように目を見開いた。
「そんなこと・・・ないよ。」
「田辺さん・・・?」
「高杉くんがいてくれるから、私・・・安心できるんだよ。優しくて、丁寧で・・・いつも支えてくれてるの、ちゃんと分かってるから。」
その言葉は、胸の奥に静かに染み込んだ。
「・・・ありがとうございます。そう言っていただけると、救われます。」
「うん。だから・・・これからも一緒に頑張ろうね。」
「はい。もちろんです。」
二人の間に、柔らかい空気が流れた。
帰り道。
四人になった影が、夕暮れの道に並んで伸びていく。
(あと一人・・・)
(五人そろえば、文化祭に出られる)
しかし同時に――
壮真の胸には、言葉にできない小さな不安も芽生えていた。
(田辺さんが・・・誰かに取られてしまうような気がして)
その感情が何なのか、まだ自分では分からない。
ただ、“モブな僕ら”の青春は、少しずつ、確かに動き始めていた。




