第7話 「新しい仲間を探して」
この作品は登場人物が全員モブです。必ずモブ顔で想像してください。
文化祭の出店に必要な人数は五人。
二人だけの調理クラブには、あまりにも大きな壁だった。
「・・・どうやって仲間を探しましょうか。」
放課後の家庭科室で、壮真が静かに問いかける。
真智はノートを抱えたまま、少し困ったように眉を寄せた。
「うーん・・・私、人に声をかけるの、あまり得意じゃなくて・・・。」
「僕も同じです。ですが、誰か一人でも興味を持ってくれれば・・・そこから広がるかもしれません。」
「そうですよね・・・。」
二人はしばらく考え込んだ。
(料理が好きな人・・・誰かいたでしょうか)
壮真はクラスの顔ぶれを思い浮かべる。
しかし、誰が料理に興味を持っているのかなんて、普段の学校生活では分からない。
そんなとき。
「・・・あの。」
教室の扉が、控えめにノックされた。
「失礼します・・・。」
入ってきたのは、同じクラスの女子・ 佐伯ひより だった。
小柄で、いつも図書室にいるような静かな雰囲気の子だ。
「佐伯さん・・・どうかしましたか?」
壮真が丁寧に声をかけると、ひよりは少し緊張した様子で言った。
「あの・・・二人が、調理クラブを作ったって・・・聞いたんだけど・・・。」
「えっ・・・どこで聞いたんですか?」
真智が驚くと、ひよりは小さく指を合わせた。
「昨日・・・廊下で話してるの、ちょっと聞こえて・・・その・・・文化祭で料理を出したいって・・・。」
(聞かれていたんですね・・・)
壮真は少し恥ずかしくなったが、ひよりの次の言葉に耳を傾けた。
「もし・・・迷惑じゃなかったら・・・私も、入れてほしいなって・・・思って・・・。」
「えっ・・・!」
真智の目が大きく開く。
「佐伯さん、料理が好きなんですか?」
「う、うん・・・家でよくお菓子作りしてて・・・でも、誰かに食べてもらう機会がなくて・・・だから・・・その・・・。」
ひよりはもじもじしながら続けた。
「二人が楽しそうに話してるの見て・・・私も、混ざりたいなって・・・思って・・・。」
その言葉に、真智の表情がぱっと明るくなった。
「嬉しい・・・!ぜひ、一緒にやりましょう!」
「ほ、本当に・・・いいの?」
「もちろんです。仲間が増えるの、すごく心強いです。」
壮真も丁寧に頷いた。
「佐伯さんが来てくださるなら、とても助かります。よろしくお願いします。」
「・・・うん。よろしくお願いします。」
ひよりは小さく微笑んだ。
その笑顔は、普段の静かな印象とは違い、どこか柔らかかった。
新しい仲間が加わったことで、家庭科室の空気は少し賑やかになった。
「じゃあ・・・今日は三人で、簡単なお菓子を作ってみませんか?」
真智が提案すると、ひよりは嬉しそうに頷いた。
「うん・・・!
クッキーなら、よく作ってるから・・・手伝えると思う。」
「では、佐伯さんのレシピで作ってみましょうか。」
「えっ・・・わ、私の・・・?」
「はい。せっかくですし。」
ひよりは照れながらも、鞄から小さなメモ帳を取り出した。
そこには、丁寧な字でクッキーのレシピが書かれている。
「すごいですね・・・とても分かりやすいです。」
「そ、そうかな・・・?」
「はい。僕でも作れそうだと思いました。」
「・・・よかった。」
ひよりは頬を赤くしながら微笑んだ。
三人で作るクッキーは、驚くほど楽しかった。
「佐伯さん、混ぜるの上手だね。」
「えへへ・・・ありがとう。」
「佐伯さん、焼き加減も完璧ですね。」
「お母さんとよく作ってたから・・・。」
オーブンから漂う甘い香りが、家庭科室を満たしていく。
焼き上がったクッキーをひと口食べた瞬間、壮真は思わず目を見開いた。
「・・・とても美味しいです。甘さがちょうどよくて、食感もサクサクで・・・。」
「ほ、本当に・・・?」
「はい。文化祭でも人気が出ると思います。」
ひよりは胸の前で手をぎゅっと握った。
「よかった・・・!私、誰かに“美味しい”って言ってもらうの、初めてで・・・すごく嬉しい・・・。」
その言葉に、真智も優しく微笑んだ。
「これから、もっとたくさん作りましょうね。」
「うん・・・!」
帰り道、三人は並んで歩いた。
「仲間が増えるって・・・こんなに嬉しいんですね。」
真智が言うと、ひよりも小さく頷いた。
「私も・・・二人と一緒にできて、嬉しい・・・。」
壮真は二人の横顔を見ながら、静かに思った。
(これなら・・・文化祭も、きっと実現できますね)
(そして・・・この調理クラブは、もっと素敵な場所になる)
三人の影が夕暮れの道に並んで伸びていく。
こうして、“モブな僕ら”の青春は、新しい仲間を迎え、少しずつ賑やかになっていった。




