第6話「文化祭への準備と、初めての壁」
この作品は登場人物が全員モブです。必ずモブ顔で想像してください。
文化祭まで、あと一か月。
放課後の家庭科室には、今日も二人の姿があった。
「今日は・・・文化祭で出すメニューの候補を考えたいですね。」
壮真が言うと、真智はノートを開きながら頷いた。
「はい。私もいくつか考えてきました。カレー、コロッケ、オムライス・・・あと、スイーツも少し。」
「スイーツ、ですか?」
「うん。クッキーとか、マフィンとか・・・手軽に食べられるものがいいかなって。」
真智のノートには、丁寧なイラストとレシピが並んでいた。
どれも美味しそうで、見ているだけでお腹が鳴りそうだ。
「どれも素敵ですね。田辺さん、本当に料理が好きなんですね。」
「・・・はい。でも、こうして誰かと一緒に考えるのは初めてなので・・・すごく楽しいです。」
その言葉に、壮真の胸がじんわりと温かくなる。
(僕も・・・同じ気持ちです)
しかし、文化祭に参加するには、避けて通れない問題があった。
「・・・あの、高杉くん。」
真智が少し不安そうに口を開く。
「文化祭で出店するには・・・先生に許可をもらわないといけないんですよね。」
「そうですね。それに、食品を扱うとなると、衛生面のチェックも必要ですし・・・材料費の問題もあります。」
「うぅ・・・やっぱり、難しいですよね。」
真智は肩を落とした。
「いえ。難しいですが、不可能ではないと思います。まずは先生に相談してみましょう。それから、必要な手続きを確認して・・・。」
「・・・そうですね。やってみないと、分からないですもんね。」
真智は小さく頷いたが、その表情には不安が残っていた。
翌日、二人は職員室へ向かった。
文化祭の担当である生活指導の先生に相談するためだ。
「失礼します。文化祭の件で、ご相談がありまして・・・。」
壮真が丁寧に切り出すと、先生は眼鏡を押し上げながら二人を見た。
「調理クラブ? 君たち、正式な部活じゃないよね。」
「はい。ですが、文化祭で料理を提供したいと思っていまして・・・。」
「料理を? 二人で?」
先生の声には、明らかに“難しいだろう”という色があった。
「食品を扱う出店は、衛生管理が厳しいんだ。調理設備、人数、責任者・・・それに、事故が起きたらどうする?」
真智の肩がびくっと震える。
「・・・すみません。やっぱり、無理ですよね・・・。」
「無理とは言わないが、条件は厳しい。最低でも五人以上のメンバー、顧問の先生、
そして事前の衛生講習を受けてもらう必要がある。」
「五人・・・。」
二人だけの調理クラブには、あまりにも高いハードルだった。
職員室を出たあと、真智は俯いたまま歩いていた。
「・・・やっぱり、無理なんだよね。二人だけじゃ、どうにもならないよ・・・。」
「田辺さん・・・。」
「ごめんなさい。私、文化祭で料理を出すなんて・・・最初から無理なことを言って・・・。」
真智の声は震えていた。
「そんなことありません。田辺さんの夢は、無理なんかじゃありません。」
壮真は立ち止まり、真智のほうを向いた。
「確かに、今のままでは難しいです。でも・・・方法がないわけではありません。」
「方法・・・?」
「メンバーを増やせばいいんです。僕たちと同じように、料理が好きな人を探して・・・五人集まれば、文化祭に参加できます。」
「でも・・・そんな人、いるかな・・・。」
「探してみないと分かりません。それに・・・。」
壮真は少し照れながら言った。
「田辺さんの料理を食べたら、きっと誰だって仲間になりたくなりますよ。」
「・・・高杉くん。」
真智の瞳が、少しだけ光を取り戻した。
「・・・ありがとう。もう少しだけ・・・頑張ってみたいです。」
「はい。僕も一緒に頑張ります。」
その日の帰り道。
夕暮れの空は赤く染まり、二人の影が長く伸びていた。
(メンバー集め・・・簡単ではありませんが・・・でも、田辺さんの夢のためなら・・・)
壮真は静かに拳を握った。
一方で真智も、胸の奥で小さな決意を固めていた。
(もっと・・・私の料理を食べてもらいたい。そのために、できることをやりたい)
こうして二人は、初めての“壁”にぶつかりながらも、前へ進むための一歩を踏み出した。




