第4話 「部室探しと、初めてのカレー」
この作品は登場人物が全員モブです。必ずモブ顔で想像してください。
翌日の放課後。
壮真は教室で鞄を閉じながら、そわそわと時計を見上げていた。
(今日は・・・調理クラブの活動場所を探すんですよね)
昨日の話し合いが楽しすぎて、昨夜は少し寝つきが悪かった。
胸の奥がずっとふわふわしている。
そんなとき、教室の入口から控えめな声がした。
「高杉くん、準備できましたか?」
「はい。すぐ行きます。」
真智はいつも通り落ち着いた雰囲気だが、どこか嬉しそうでもある。
二人は並んで廊下へ出た。
まず向かったのは家庭科室。
放課後は空いていることが多いと聞いたが、今日はどうだろうか。
扉を開けると、家庭科の先生が片付けをしていた。
「あら、どうしたの?」
真智が少し緊張した様子で口を開く。
「あの・・・放課後に、料理の練習をしたいのですが・・・家庭科室を使わせていただくことはできますか?」
先生は少し驚いたように目を丸くした。
「料理の練習? 二人で?」
「はい。僕たち、調理クラブのようなものを作りたいと思っていまして・・・。」
壮真が丁寧に説明すると、先生はふっと笑った。
「いいわよ。危ないことをしなければ、自由に使っていいわ。ただし、使用申請書を出すのと使った後は必ず片付けてね。」
「ありがとうございます!」
二人はそろって頭を下げた。
(よかった・・・これで活動場所は確保できましたね)
家庭科室を出ると、真智がほっと息をついた。
「先生、優しいですね・・・。」
「はい。これで、調理クラブの第一歩が踏み出せましたね。」
「うん・・・なんだか、本当に始まるんだって実感します。」
そのまま二人は家庭科室に戻り、今日の“初めての試作”に取りかかった。
「では・・・今日はカレーを作るんですよね。」
「はい。高杉くんが好きって言っていたので。」
真智はエプロンをつけ、髪を後ろでまとめる。
その仕草が妙に板についていて、壮真は思わず見とれてしまった。
「・・・どうかしましたか?」
「あ、いえ。とても似合っていると思いまして。」
「えっ・・・あ、ありがとうございます・・・。」
真智の耳が赤くなる。
(言ってしまいましたね・・・でも、本当に似合っていましたし)
気を取り直して、二人は材料を並べた。
• 玉ねぎ
• にんじん
• じゃがいも
• 鶏肉
• カレールウ
「まずは玉ねぎを炒めますね。しっかり炒めると甘みが出るので。」
「なるほど・・・勉強になります。」
真智がフライパンを振る姿は、普段の静かな雰囲気とは違い、どこか頼もしい。
料理をしているときの彼女は、まるで別人のように生き生きしていた。
「高杉くん、じゃがいもを切っていただけますか?」
「はい。お任せください。」
包丁を握る手は少しぎこちないが、真智が横で優しく教えてくれる。
「そうです、そのくらいの大きさで大丈夫です。」
「こうでしょうか?」
「はい、とても上手です。」
褒められると、少しだけ嬉しくなる。
4
具材を炒め、水を加え、煮込む。
部屋にカレーの香りが広がり始めた。
「・・・いい匂いですね。」
「うん。カレーって、作っているときから幸せになりますよね。」
真智は鍋を見つめながら、ふっと微笑んだ。
「実は・・・誰かと一緒に料理するの、初めてなんです。」
「僕もです。こんなに楽しいものだとは思いませんでした。」
「ふふ・・・よかった。」
やがてルウを入れ、さらに煮込む。
とろみがつき、色が深くなっていく。
「そろそろ、できましたよ。」
「楽しみです。」
二人は皿に盛り付け、テーブルに並んで座った。
「では・・・いただきます。」
「いただきます。」
ひと口食べた瞬間、壮真は目を見開いた。
「・・・美味しいです。とても。」
「本当ですか?」
「はい。野菜の甘みもありますし、鶏肉も柔らかくて・・・何より、田辺さんの味がします。」
「わ、私の味って・・・。」
「いえ、変な意味ではなく・・・優しい味だと思いまして。」
真智は照れながらも、嬉しそうに笑った。
「よかった・・・頑張ってよかったです。」
食べ終わるころには、外はすっかり夕暮れだった。
「今日は・・・本当に楽しかったです。」
「僕もです。これからも、よろしくお願いします。」
「うん。こちらこそ・・・よろしくお願いします。」
二人は並んで家庭科室を出た。
夕焼けの廊下を歩く影が、少しだけ近づいて見えた。
(これから、もっといろんな料理を作って・・・もっと、田辺さんの笑顔が見られたらいいですね)
壮真はそう思いながら、静かに歩いた。
こうして、“モブな僕ら”の青春は、確かな形を持ち始めた。




