第3話「調理クラブ、始動」
この作品は登場人物が全員モブです。必ずモブ顔で想像してください。
放課後のチャイムが鳴り終わった教室は、帰宅する生徒たちの声で賑やかだった。
その中で、壮真は鞄を肩にかけながら、ちらりと真智の席を見た。
(・・・話したほうが良いですよね。調理クラブのこと)
昨日、昼休みに勢いで提案したものの、具体的な話はまだ何も決まっていない。
本当にできるのか、どこまで現実的なのか。
考えれば考えるほど不安は増える。
そんなとき。
「高杉くん。」
名前を呼ばれ、振り向くと真智が立っていた。
ノートを胸に抱え、少しだけ緊張した面持ちで。
「今日・・・少し、お話しできますか?」
「はい。もちろんです。」
二人は自然と並んで教室を出た。
校舎裏のベンチ。
夕方の風が少し冷たく、でも心地よい。
真智はノートを開きながら、そっと言った。
「昨日の・・・調理クラブの話なんですけど。」
「はい。」
「私・・・やっぱり、やってみたいです。誰かに食べてもらえる場所があるって、すごく嬉しいので。」
その言葉に、壮真の胸が温かくなる。
「そう言っていただけて、僕も嬉しいです。僕は食べることしかできませんけど・・・それでも、力になれるなら。」
「ううん。高杉くんが“美味しい”って言ってくれるの、すごく励みになるから。一緒にやりたいって思ったのは・・・そのおかげです。」
真智は照れたように笑った。
「それで・・・まずは、どこで活動するか決めないとですよね。」
「そうですね。家庭科室は・・・放課後は空いているんでしょうか。」
「先生に聞いてみないと分からないけど・・・もし使えなかったら、空き教室とかでもいいかも。」
「はい。調理器具は持ち込めば何とかなりますし。」
二人はノートを見ながら、まるで秘密の計画を立てるように話し合った。
• 活動場所
• 活動日
• 作りたい料理
• 必要な道具
どれも小さなことだけれど、二人にとっては大きな一歩だった。
「そういえば・・・。」
真智がふと思い出したように言う。
「高杉くん、食べたいものってありますか?」
「食べたいもの、ですか?」
「うん。せっかくなら、高杉くんが“これ食べたい”って思うものを作りたいので。」
壮真は少し考えた。
普段から食べることは好きだが、改めて聞かれると迷ってしまう。
「・・・そうですね。田辺さんの作るものなら、何でも嬉しいですけど・・・。」
「そ、そういうのはずるいです・・・。」
真智は頬を赤くしながら、視線をそらした。
「で、でも・・・嬉しいです。」
「では・・・強いて言うなら、カレーが好きです。家庭的なものでも、スパイスの効いたものでも。」
「カレー・・・いいですね。じゃあ、最初の試作はカレーにしましょうか。」
「はい。楽しみにしています。」
真智は嬉しそうに頷いた。
話し合いが一段落したころ、夕日が校舎を赤く染めていた。
「・・・なんだか、ワクワクしますね。」
壮真が言うと、真智も同じように空を見上げた。
「うん。今まで、料理は好きだったけど・・・。誰かと一緒に何かをするのって、初めてだから。」
「僕もです。こんなふうに誰かと放課後に残るのも、初めてですし。」
「・・・そうなんだ。」
真智は少しだけ嬉しそうに微笑む。
「じゃあ・・・これから、よろしくお願いしますね。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
二人は軽く頭を下げ合った。
その仕草がどこかぎこちなくて、でも温かかった。
(調理クラブ・・・本当に始まるんだな)
壮真の胸の中で、静かに期待が膨らんでいく。
そして真智もまた、自分の料理を誰かに届けられる未来を、そっと思い描いていた。
夕暮れの校舎裏で交わした小さな約束。
それは、モブ同士の二人にとって、確かな第一歩だった。




