第2話「初めての手作り弁当」
この作品は登場人物が全員モブです。必ずモブ顔で想像してください。
翌日の昼休み。
壮真は、いつも通り購買のパンを片手に席へ戻ってきた。
クラスメイトたちの会話が飛び交う中、彼は静かに袋を開ける。
(・・・今日、田辺さんはどうするのでしょうか?)
昨日の放課後の会話が頭から離れない。
“今度作ってくるね”
その言葉が、妙に胸の奥をくすぐっていた。
そんなとき。
「・・・高杉くん」
控えめな声が、机の横から聞こえた。
「わっ・・・!」
驚いて振り向くと、真智が小さな紙袋を両手で持って立っていた。
頬がほんのり赤い。
「こ、これ・・・昨日の、約束の・・・」
差し出された紙袋。
中からは、ほんのり温かい匂いが漂ってくる。
「え、これ・・・弁当?」
「うん。簡単なものだけど・・・よかったらって思ったけどパンっ買っちゃった?」
壮真は、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
「ありがとうございます! めちゃくちゃ嬉しいです!大丈夫!僕大食いだから全然食べれます。パンだけじゃ足りなかったので良かったです。」
その勢いに、真智は少し照れたように目をそらす。
「・・・そんなに喜んでもらえると、作った甲斐があるよ。」
二人は普段は誰も使わない調理実習室の窓際の席に移動した。
そこは昼休みでも比較的静かで、外の光が柔らかく差し込む場所だ。
紙袋から取り出した弁当箱を開けると、壮真は思わず息を呑んだ。
「・・・すごい・・・!」
色とりどりのおかずが、ぎゅっと詰まっている。
卵焼き、照り焼きチキン、ほうれん草のおひたし、ミニトマト。
そして、ほんのりバターの香りがするキノコの炊き込みご飯。
「これ・・・全部、田辺さんが?」
「うん。朝ちょっと早く起きて・・・」
「すごいよ。めちゃくちゃ美味しそう」
真智は嬉しそうに、でもどこか不安げに聞いた。
「・・・口に合うといいんだけど」
壮真は迷わず箸を伸ばした。
まずは卵焼き。
ひと口食べた瞬間、目を見開く。
「・・・美味しいっ!」
「ほ、本当?」
「本当です! 甘さちょうどいい、ふわふわで・・・これ、お店の味です!」
真智の頬がさらに赤くなる。
「よかった・・・」
次に照り焼きチキン。
噛んだ瞬間、じゅわっと旨味が広がる。
「これも・・・うわーーー!ご飯が進むやつです。」
「ふふ・・・それ、狙ったんだ。」
「狙った?」
「高杉くん、大食いでしょ? だから、ご飯が進む味付けにしたの」
「・・・なんで知ってるのですか?」
「見てたから。」
その言葉に、壮真の心臓が一瞬止まりかけた。
「え、見てたって・・・」
「いつも購買でパン4つ買ってるの、知ってるよ。」
「うわ・・・恥ずかしいです・・・」
「恥ずかしくないよ。いっぱい食べる人、・・・・・・好きだから。」
その一言は、昼休みのざわめきの中でも鮮明に響いた。
弁当を食べ終えたころ、壮真はふと思った。
(こんなに美味しい料理を作れるのに・・・誰にも知られてないなんて、もったいないです)
そして、昨日から胸の中でぼんやりしていた考えが、形になり始める。
「田辺さん。」
「なに?」
「田辺さんの料理・・・もっとたくさんの人に食べてもらうべきだと思います。」
「え・・・。」
「だって、こんなに美味しいんですよ?僕だけじゃなくて、他の人にも絶対喜ばれます。」
真智は少し戸惑ったように目を伏せた。
「・・・でも、私、人前に出るの苦手だし・・・」
「じゃあ。」
壮真は、少し勇気を出して言った。
「二人で・・・調理クラブ、作ってみましょう?」
真智の目が大きく開く。
「調理・・・クラブ?」
「はい。部活ってほど大げさじゃなくていい。でも、料理作って、誰かに食べてもらって・・・
田辺さんの夢に、少しでも近づける場所になればいいなって。」
真智はしばらく黙っていた。
その沈黙が、壮真には少しだけ怖かった。
「・・・できるかな?」
小さく、でも確かにそう言った。
「私も・・・誰かに食べてもらいたいって思ってた。でも、一人じゃ勇気が出なくて・・・」
そして、真智は微笑んだ。
「高杉くんが一緒なら・・・やってみたい。」
その笑顔は、春の光よりも温かかった。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
二人は弁当箱を片付けながら、どこかそわそわしていた。
(調理クラブ・・・本当にできるのかな)
(でも・・・高杉くんとなら、きっと)
二人の胸の中で、同じ期待が静かに膨らんでいく。




