第14話「揺れる気持ちと、すれ違いの始まり」
この作品は登場人物が全員モブです。必ずモブ顔で想像してください。
文化祭まで残り十日。
調理クラブの活動は、いよいよ本格的な追い込みに入っていた。
家庭科室には、今日も五人の姿がそろっている。
しかし――
その空気には、ほんの少しだけ“ぎこちなさ”が混じっていた。
「じゃあ・・・今日はクッキーの包装作業を練習しようと思います。」
真智が明るく声を出す。
だが、その声の裏に、わずかな不安が滲んでいた。
(・・・佐伯さん、最近ちょっと元気ない気がする)
真智は、ひよりの表情を気にしていた。
一方で、壮真も、和馬の様子が気になっていた。
(木下さん・・・どこか落ち着かないように見えますね)
悠斗だけは、いつも通りの調子で腕を組んでいた。
「よし、やるぞ。今日は百個分の包装を目標にしようぜ!」
「ひ、百個・・・!」
和馬が小さく震える。
「だ、大丈夫かな・・・」
ひよりも不安そうだ。
真智は二人に優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ。みんなでやれば、きっと出来るから。」
その言葉に、二人は小さく頷いた。
包装作業が始まると、家庭科室は静かな集中に包まれた。
「佐伯さん、こちらの袋をお願いします。」
「うん・・・。」
「木下さん、シールを貼っていただけますか?」
「は、はい・・・!」
壮真は、全体の流れを見ながらサポートに回っていた。
(・・・みんな、頑張っていますね)
しかし、ふと視線を向けると――
ひよりが、ほんの少しだけ寂しそうな表情をしていた。
(・・・佐伯さん?)
声をかけようとしたその瞬間。
「高杉くん、これ・・・どうしたらいいかな?」
真智が近くから声をかけてきた。
「はい、田辺さん。こちらは――」
壮真は真智のほうへ向き直る。
その様子を見ていたひよりは、胸の奥がきゅっと痛んだ。
(・・・まただ)
真智と壮真が並んで作業する姿。
自然に笑い合う姿。
それを見るたびに、胸がざわつく。
(私・・・何を期待してるんだろう)
ひよりは自分の手元に視線を落とした。
一方で、和馬もまた、胸の奥に小さな不安を抱えていた。
(・・・佐伯さん・・・やっぱり高杉くんに事が・・・)
シールを貼る手が震える。
悠斗は、誰にも気づかれないように小さくため息をついた。
そんな中、悠斗がふと声を上げた。
「おい、佐伯。袋、逆だぞ」
「えっ・・・あ・・・ご、ごめん・・・!」
ひよりは慌てて直す。
悠斗はため息をつきながらも、優しく言った。
「気にすんな。疲れてんだろ。少し休めよ。」
「う、うん・・・。」
ひよりは小さく頷いた。
その様子を見ていた真智は、胸がざわついた。
(・・・佐伯さん、やっぱり元気ない)
壮真も気づいていた。
(佐伯さん・・・無理をしていませんか?)
しかし、声をかけようとした瞬間――
「高杉くん、これ見てほしいんだけど・・・!」
真智が呼ぶ。
「はい、田辺さん」
壮真はそちらへ向かう。
ひよりは、その背中を見つめながら、胸の奥がさらに痛くなるのを感じた。
(・・・どうして、こんな気持ちになるんだろう?)
作業が終わり、片付けの時間。
「今日も・・・お疲れさまでした。」
壮真が言うと、真智がそっと微笑んだ。
「うん・・・!明日はカレーの仕込み練習もしようね。」
「はい。楽しみにしています。」
そのやり取りを見ていたひよりは、胸の奥に小さな不安を抱えたまま、家庭科室を後にした。
(・・・二人の邪魔は・・・したくない・・・)
夕暮れの家庭科室に、五人の影が長く伸びていく。
こうして、“モブな僕ら”の青春は、準備が本格化する中で、それぞれの胸に小さな不安を抱え始めていた。




