第13話 「文化祭準備本格化!そして訪れる小さな不安」
この作品は登場人物が全員モブです。必ずモブ顔で想像してください。
クッキーとカレーの試作が成功し、調理クラブの士気は最高潮に達していた。
文化祭まで残り二週間。
放課後の家庭科室は、いつも以上に活気に満ちていた。
「今日は・・・クッキーの量産練習をしようと思います」
真智がレシピノートを開きながら言う。
「うん・・・! たくさん作れるようにしないと・・・!」
ひよりは、やる気に満ちた表情で頷いた。
和馬も、控えめながら前向きな声を出す。
「ぼ、僕・・・計量をもっと正確にできるように頑張ります・・・!」
悠斗は腕を組んだまま、にやりと笑った。
「俺は焼き上がりの管理をやる。焦がしたら終わりだからな。」
壮真は、そんな仲間たちを見て静かに微笑んだ。
(・・・本当に、いいチームですね)
作業が始まると、家庭科室は忙しくも楽しい空気に包まれた。
「佐伯さん、こちらの生地をお願いします。」
「うん・・・!」
「木下さん、砂糖の計量をお願いできますか。」
「は、はい・・・!」
「三浦さん、オーブンの温度調整をお願いします。」
「任せろ。」
真智は全体を見ながら、丁寧に指示を出していく。
「みんな、すごく上手になってきたね・・・!」
その言葉に、全員の表情が明るくなった。
しかし――
その中で、壮真だけは少しだけ胸がざわついていた。
(・・・僕は、何を担当すればいいのでしょうか?)
みんなが得意分野を発揮している中、自分だけが“特別な役割”を持てていないように感じてしまう。
そんなとき、真智がそっと近づいてきた。
「高杉くん・・・」
「はい。どうしましたか、田辺さん?」
「今日・・・なんだか元気がないように見えて・・・。」
(・・・また気づかれてしまいましたね)
壮真は、少しだけ迷ってから答えた。
「いえ・・・皆さんがとても優秀なので、僕だけ取り柄がないように感じてしまって・・・。」
真智は驚いたように目を見開いた。
「そんなこと・・・ないよ・・・」
「田辺さん・・・?」
「高杉くんは、みんなをまとめてくれてる。困ってる人がいたらすぐ気づいて、声をかけてくれる。それって・・・すごく大事なことだよ。あと作業で使う道具とかを要るときにいいタイミングで出してくれてたよね。それが出来るのはすごい才能だと思うよ。」
壮真の胸に、静かに温かさが広がった。
「・・・ありがとうございます。そう言っていただけると、救われます。」
真智は、少し照れながら微笑んだ。
「ふふ・・・本当のことだよ。」
しかし――
その様子を見ていた人物がいた。
ひよりは、二人の距離が近いことに気づき、胸の奥がきゅっと痛んだ。
(・・・やっぱり、田辺さんって高杉くんの・・・特別なんだ)
和馬も、複雑そうに二人を見つめていた。
(・・・僕も、あんなふうに彼女と話せたら・・・)
悠斗はそんな二人の様子に気づき、心の中でため息をついた。
(・・・まぁ、こういうのは仕方ねぇよな)
作業が終わり、片付けをしているとき。
「今日も・・・お疲れさまでした。」
壮真が言うと、真智がそっと微笑んだ。
「うん・・・!明日はカレーの仕込み練習もしようね。」
「はい。楽しみにしています。」
そのやり取りを見ていたひよりは、胸の奥に小さな不安を抱えたまま、家庭科室を後にした。
(・・・このままじゃ、私・・・)
和馬もまた、自分の居場所が少しだけ揺らいでいるような気がしていた。
(・・・もっと頑張らないと・・・)
悠斗は、そんな二人の背中を見ながら呟いた。
「・・・青春って、めんどくせぇな・・・。」
夕暮れの家庭科室に、五人の影が長く伸びていく。
こうして、“モブな僕ら”の青春は、準備が本格化する中で、それぞれの胸に小さな不安を抱え始めていた。




