第10章「文化祭メニュー決定会議と、初めての衝突」
この作品は登場人物が全員モブです。必ずモブ顔で想像してください。
文化祭まで、あと三週間。
五人になった調理クラブは、いよいよ“本番のメニュー”を決める段階に入っていた。
放課後の家庭科室。
テーブルには、真智のレシピノートと、ひよりのメモ帳、そして和馬の控えめなアイデアメモが並んでいる。
「では・・・今日は文化祭で出すメニューを決めたいと思います。」
壮真が丁寧に切り出すと、全員が真剣な表情になった。
「まずは、候補を出しましょうか。」
真智がノートを開きながら言う。
「私は・・・カレー、オムライス、クリームコロッケ、クッキー・・・このあたりがいいかなって。」
「ぼ、僕は・・・焼き菓子系が得意なので・・・フィナンシェとか、マドレーヌとか・・・。」
和馬が控えめに手を挙げる。
「私は・・・クッキーがいいと思う・・・たくさん作れるし、持ち帰りもできるし・・・。」
ひよりが小さな声で続ける。
悠斗は腕を組んだまま言った。
「俺は・・・ガッツリ系がいいと思う。カレーとか、唐揚げとか。腹にたまるもんのほうが、男子は喜ぶだろ。」
それぞれの意見が出揃い、空気が少しだけ熱を帯びる。
「では・・・どれをメインにするか、話し合いましょう。」
壮真が言うと、三浦がすぐに口を開いた。
「俺はカレー推しだな。大量に作れるし、味のブレも少ない。それに、田辺のカレーは普通にうまいし。」
「えっ・・・あ、ありがとう・・・。」
真智は照れながらも嬉しそうだ。
しかし、ひよりが小さく手を挙げた。
「で、でも・・・クッキーもいいと思う・・・食べ歩きできるし、女子も買いやすいし・・・。」
「クッキーは地味だろ。文化祭って言ったら、もっとインパクトあるもんじゃねぇと。」
悠斗の言葉に、ひよりはしゅんと肩を落とした。
「い、インパクトって・・・そんなに大事かな・・・。」
「大事だろ。客を呼ぶんだから。」
「・・・でも・・・。」
ひよりの声はどんどん小さくなる。
その様子を見て、真智がそっと口を開いた。
「佐伯さんのクッキー・・・すごく美味しいよ。私は、どっちもいいと思う・・・。」
「田辺さん・・・」
ひよりの表情が少しだけ明るくなる。
しかし、悠斗は譲らなかった。
「田辺が作るなら、カレーのほうが絶対売れるって。」
「三浦くん・・・。」
壮真は、胸の奥がざわつくのを感じた。
(・・・田辺さんの料理を“売れるかどうか”で判断するのは、違うのでは)
「三浦くん」
壮真は静かに口を開いた。
「文化祭は二日間ありますよね。
なら・・・一日目と二日目でメニューを変えるのはどうでしょうか?」
真智が目を丸くする。
「えっ・・・そんなこと、できるの?」
「はい。準備は大変ですが、五人いれば不可能ではありません。それに・・・どちらかを諦める必要もなくなります。」
ひまりの表情がぱっと明るくなる。
「そ、それ・・・すごくいい・・・!」
和馬も小さく頷いた。
「ぼ、僕も・・・その案に賛成です・・・。」
しかし、悠斗は腕を組んだまま考え込んでいた。
「・・・二日間でメニューを変えるってのは、確かに面白いけどよ。仕込みとか、材料の管理とか・・・大変だぞ?」
「大変ですが・・・やりがいはあります。それに、佐伯さんのクッキーと田辺さんのカレーも、どちらも魅力的ですから。」
真智は頬を赤くしながら言った。
「高杉くん・・・ありがとう・・・。」
悠斗はため息をつき、そして笑った。
「・・・まぁ、いいんじゃねぇか。どうせやるなら、派手にいこうぜ。」
こうして、文化祭のメニューは――
1日目:クッキー
2日目:カレー
という二本立てに決定した。
「よかった・・・これで、どっちも作れるね。」
真智が胸の前で手をぎゅっと握る。
「はい。とても良い案だと思います。」
壮真が丁寧に頷くと、ひよりも嬉しそうに微笑んだ。
「うん・・・すごく楽しみ・・・!」
和馬は控えめに言った。
「ぼ、僕・・・クッキーの仕込み、頑張ります・・・!」
悠斗は照れくさそうに鼻を鳴らした。
「二日目は任せろよ。カレーは俺も手伝うからな!」
会議が終わり、五人は帰り支度を始めた。
真智はそっと壮真に近づき、小さな声で言った。
「高杉くん・・・今日の案、すごくよかったよ。みんなの気持ちを大事にしてくれて・・・私、すごく嬉しかった。」
「いえ・・・僕はただ、皆さんが笑顔になれる方法を考えただけです。」
「ふふ・・・そういうところ、やっぱり好きだよ。」
「・・・っ!!」
その言葉に、壮真の胸はまた静かに跳ねた。
(・・・好き、ですか・・・)
もちろん、友達としてだと分かっている。
それでも、心臓はしばらく落ち着かなかった。
こうして、“モブな僕ら”の青春は、初めての衝突を乗り越え、文化祭へ向けて大きく前進した。




