第8話 勇者の凱旋、あるいは災害警報
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
オークの群れを(拳圧だけで)壊滅させた慎也たちは、その足で近くの村へと向かった。
道中、慎也の心は踊っていた。
(魔物を倒して村へ帰還……。これこそファンタジーの醍醐味だ!)
ラノベやゲームで何度も見た光景。
村人たちが駆け寄り、「勇者様ありがとう!」と感謝され、宴が開かれ、温かいベッドで眠る。
先ほどの戦闘(?)の恐怖も薄れ、慎也は少しウキウキしながら村の入り口をくぐった。
「た、大変だぁぁぁ!!」
第一声は、見張り台にいた男の悲鳴だった。
「鐘を鳴らせ! 女子供を隠せ! 食料庫に鍵をかけろぉぉ!!」
カンカンカンカン!
けたたましい半鐘の音が鳴り響く。平和な村が、一瞬にして戦場のようなパニックに陥った。
畑を耕していた農夫は鍬を放り出して逃げ去り、道端で遊んでいた子供は母親に抱えられて家の中に消えた。
バタン! バタン! ガチャン!
家々の扉や窓が閉められ、幾重にも鍵がかかる音が連鎖する。
――そして、誰もいなくなった。
風に転がる枯れ草だけが、慎也の足元を通り過ぎていく。
「…………え?」
慎也は固まった。
歓迎のパレードは? 感謝の言葉は?
「あの、ミナさん。これは……敵襲警報か何かですか?」
「いえ、どう見てもキース様への警戒警報ですね」
僧侶のミナが、さも当然のように言った。
「前回立ち寄った時、キース様が『村の酒が不味い』と暴れて酒場を半壊させたのを忘れたのですか?」
(うわぁ……最低だ、この体の持ち主)
慎也は頭を抱えた。
どうやら自分は英雄ではなく、台風や地震と同じ「災害」として認識されているらしい。
だが、今日は野宿は嫌だ。屋根のある場所で休みたいし、何より誤解を解きたい。
慎也は意を決して、唯一看板が出ている「宿屋兼食堂」へと足を向けた。
「た、頼むぅぅ! 店だけは! 店だけは壊さないでくれぇぇ!」
扉を開けた瞬間、店主の親父さんがカウンターの下から土下座で滑り出てきた。
「金ならある! レジの中身を全部持っていってくれ! だから命だけは!」
「い、いえ! 違います!」
慎也は慌てて手を振った。
「強盗しに来たんじゃありません! 宿泊をお願いしたいんです!」
「しょ、宿泊……?」
店主がおそるおそる顔を上げる。
「へ、部屋なら一番いい所を自由に使ってくだせぇ! もちろんタダでいいんで!」
「いえ、そういうわけにはいきません」
慎也はキリッとした顔で首を横に振った。
「適正な対価を払うのは、社会生活の基本です。タダで泊まるなんて、そんな無礼なことできません」
慎也は腰の袋から、金貨を三枚取り出し、カウンターに置いた。
カチャン、と硬貨が重なる音が、静まり返った店内に響く。
「一泊二食付き、三人分。お釣はいりません。……あと、もしあればでいいんですが」
「は、はい! なんでしょう! 酒ですか!? 女ですか!?」
「いえ、『領収書』をいただけますか?」
「りょ……?」
店主が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「りょうしゅう、しょ……? なんですか、それは。新しい呪いの呪文か何かで……?」
「あ、いえ、支払いを証明する紙のことです。後でトラブルにならないように」
慎也は真面目腐った顔で説明した。
元の世界での習慣――というより、生徒会会計としての癖が出てしまったのだ。
店主は震える手で金貨を見つめ、それから慎也の顔を盗み見た。
(……金を出した? あの暴君が? しかも『後でトラブルにならないように』だと?)
店主の脳内で、悪い予感が爆走する。
(つまり、これは手付金だ……。これを受け取ったが最後、あとで『対価以上の働き』を要求されるんだ。村を売れとか、娘を差し出せとか……!)
「ひいぃぃ! わかりやした! 紙ですね! 書きます! 何でも書きますからぁ!」
店主は半泣きで羊皮紙に何かを書き殴り、慎也に押し付けた。
「ありがとうございます。……あの、そんなに怯えなくても」
「めっそうもございません!」
慎也は礼儀正しく一礼し、指定された部屋へと上がっていった。
その後ろ姿を見送りながら、店主はその場にへたり込んだ。
「……逆に怖ぇよ。何を考えてやがるんだ、あの悪魔は……」
その夜。
出された夕食を「いただきます」「ごちそうさまでした」と手を合わせて食べる慎也の姿を見て、給仕の少女が恐怖のあまり失神するという小事件が起きたことを、慎也はまだ知らない。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




