第79話 物資過多による流通麻痺と、優先納入指定品
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
2月14日。バレンタインデー。
登校してすぐ、慎也の下駄箱前は戦場と化していた。
「齋藤くん! これ、受け取ってください!」
「ファンです! 友チョコでいいんで!」
「先輩! ずっと憧れてました!」
わらわらと群がる女子生徒たち。
かつての「もやしっ子・慎也」の影はない。今の彼は、文武両道のカリスマ生徒会長だ。
「……ふむ」
キースラインは、差し出される無数のカラフルな包みを、事務的に処理していた。
「受領する。……列を乱すな。動線が塞がる」
「ああっ、塩対応も素敵……!」
次々と積み上がるチョコの山。
彼は紙袋を持参していたが、瞬く間に満杯になり、手提げ鞄にも入り切らない量になっていた。
――その様子を、少し離れた廊下の陰から見つめる少女がいた。
花憐である。
(……すごい数……)
彼女は鞄の中の、小さな紙袋をギュッと握りしめた。
徹夜で作った、ガトーショコラ。
味見もしたし、ラッピングも頑張った。
でも、あんな煌びやかなデパートのチョコや、大量の愛の告白の前では、自分の手作りなんて霞んで見えた。
(……タイミング、ないなぁ)
休み時間になっても、放課後になっても、キースラインの周りには常に誰かがいた。
彼は「貢ぎ物」の処理に追われ、花憐と話す隙さえない。
(……今年は、無理かな)
花憐は諦めの溜息をついた。
家に帰ってから、「はい、余り物」と渡すしかないかもしれない。惨めだけれど。
***
放課後の生徒会室。
そこは甘い匂いで充満していた。
机の上には、うず高く積まれたチョコレートの塔。
「……異常事態だ」
キースラインは、エクセルの表(受領リスト)を入力しながらボヤいた。
「カカオの総重量50kg超。……私の年間消費カロリーを大幅に超過している。これはもはや、一種の『兵糧攻め』ではないか?」
「……贅沢な悩みね」
向かいの席で、花憐は書類整理をしながらポツリと言った。
その声には、明らかに元気がない。
「……はぁ。帰ろうかな」
花憐は鞄を手に取った。
結局、渡せなかった。この山の中に自分のチョコを置いても、ただの「その他大勢」の一つになってしまう気がして。
ガラッ。
彼女がドアを開けようとした、その時。
「待て」
背後から、鋭い声が飛んだ。
「……え?」
振り返ると、キースラインが眼鏡の奥からじっと彼女を睨んでいた。
「……まだ『納品』が済んでいないぞ、参謀」
「……はい?」
キースラインは、机の上のチョコの山を指差した。
「これらは全て『雑多なデータ(ノイズ)』だ。……私が待っているのは、貴様という『メインサーバー』からの正規データ(本命)だけだ」
「……っ!」
花憐が目を見開く。バレてた。
「でも……こんなにあるし……私のなんて、手作りだし、地味だし……」
「量の問題ではない。質の問題だ」
キースラインは立ち上がり、花憐の前に立った。そして、無言で手を差し出す。
「……出せ。……貴様のチョコがなければ、私のバレンタインというミッションは完了しない」
「……齋藤くん……」
花憐は涙目になりながら、鞄から小さな包みを取り出した。
「……はい。……本命、です」
キースラインはそれを受け取ると、他のチョコとは絶対に混ざらないように、自分の制服の内ポケット(心臓に近い場所)に大切にしまった。
「……受領した。
この『最重要機密』は、私が責任を持って単独処理(完食)する」
「……うん……っ!」
花憐の顔に、ようやく笑顔が戻った。
机の上の数百個のチョコよりも、胸ポケットのたった一つの重み。
それが、キースラインにとっての「勝利の証」だった。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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皆さんの応援が、僕たちの生存確率を上げます。よろしくお願いします。




