第78話 魔将軍の誤算と、聖剣による物理的解答
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
魔王領の入り口を越え、険しい岩山が連なる「嘆きの渓谷」。
案内役のザガンが、脂汗を流しながら足を止めた。
「へ、へへ……勇者様。この先が近道でして……」
「……ほう。狭い谷底か」
慎也は、切り立った崖を見上げた。
「地形効果による『射線』の確保、および退路の遮断……。待ち伏せには教科書通りの立地だな」
「ヒッ!?」
ザガンが飛び退いた瞬間、合図とばかりに岩陰から無数の魔弾と矢が降り注いだ。
「かかったな勇者ぁぁ!!」
崖の上に現れたのは、二人の魔将軍。
全身に暗器を仕込んだ策士アガレスと、巨大な戦鎌を担いだ女将軍グレモリーだ。
「ザガン、よくやった! 貴様の裏切りは帳消しにしてやる!」
「へへっ! 悪いな勇者! 俺も生きるのに必死なんだよ!」
ザガンは卑屈な笑みを浮かべ、岩陰へ逃げ込んだ。
「……裏切りか。想定内だ」
慎也は慌てず、仲間たちに指示を飛ばした。
「エリス、防御結界展開! 対空防御だ!
ガルド、ミナ、ナイル! 散開しろ! 敵は『範囲魔法』を警戒してバラけているぞ!」
その読み通り、アガレスたちは前回の「爆鎖魔法」を警戒し、互いに距離を取って包囲していた。
「甘いぞキースライン!」
女将軍グレモリーが崖から飛び降り、一直線に慎也へ突っ込んでくる。
「貴様の魔法が強力なのは知っている! だが、詠唱する暇を与えなければただのひ弱な人間だ!」
ブンッ!!
グレモリーの振るう巨大な戦鎌が、風を切り裂いて慎也の首を狙う。
後衛職(魔法使い)だと思われている慎也に向けられた、必殺の近接攻撃。
「リーダー!!」
ガルドが叫ぶ。間に合わない。
――しかし。
キィィィィン!!
甲高い金属音が渓谷に響き渡った。
「……は?」
グレモリーが目を見開く。
彼女の戦鎌は、慎也の首の数センチ手前で止まっていた。
それを止めたのは、慎也が腰から抜き放った、白銀に輝く一本の長剣だった。
「……誤解しているようだな」
慎也は、戦鎌の重みを片手で受け止めながら、冷ややかに言った。
「私が魔法を多用していたのは、単に『雑魚掃除』に効率が良かったからだ。
……個体との戦闘において、私の最適解はこれだ」
ジャッッッ!!
慎也が腕を振るう。
ただの力押しではない。人間離れした膂力と、完璧な角度による「受け流し」。
グレモリーの巨体が、まるで木の葉のように弾き飛ばされた。
「ぐわぁっ!? ば、馬鹿な! 人間ごときがこの怪力を!?」
「……勇者とは、全てのステータスが限界突破している存在を指す」
慎也は剣を構え直した。
その刀身が、魔界の淀んだ空気の中で清冽な光を放つ。聖剣エクスカリバー(仮)。
「アガレス! 援護しろ!」
体勢を崩したグレモリーが叫ぶ。
崖の上からアガレスが毒矢と魔法を乱射する。
「無駄だ」
慎也は視線すら向けなかった。
ただ、剣を振るっただけ。
ヒュン、ヒュン、ヒュン。
目にも止まらぬ剣速が、飛来する矢と魔法を全て空中で切り落とした。
「なっ……魔法を斬っただと!?」
「物理演算による軌道予測。……遅すぎる」
慎也は地面を蹴った。
ドォン!!
爆発的な加速。一瞬でグレモリーの懐に潜り込む。
「しまっ――」
ズバァァァン!!
聖剣の一閃。
グレモリーの戦鎌が真っ二つに砕け散り、その衝撃波で彼女自身も岩壁に叩きつけられた。
「がはっ……!」
「……殺しはせん。魔王への『伝言役』が必要だからな」
慎也は倒れたグレモリーを見下ろし、次に崖上のアガレスを見上げた。
「……降りてこい。それとも、この崖ごと叩き斬られたいか?」
ゾッ……。
アガレスと、隠れていたザガンは震え上がった。
魔法使いだと思っていた男は、魔法よりも遥かに恐ろしい「近接戦闘の化け物」だったのだ。
「ひぃぃぃ! ごめんなさいでやんすぅぅぅ!!」
ザガンが白旗を上げて転がり出てくる。
慎也は剣を鞘に納め、眼鏡を直した。
「……やれやれ。手間を取らせる。
私の剣を抜かせたこと、冥土の土産にするがいい」
圧倒的な剣技。
魔法に頼らずとも最強である証明。
勇者キースライン一行は、震え上がる三将軍を従え、さらに魔王領の奥へと進むこととなった。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




