第76話 密集陣形の致命的欠陥と、連鎖する熱量
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
魔王領の国境付近。荒涼とした荒野。
そこを埋め尽くすのは、地平線まで続く魔物の軍勢だった。
その数、およそ1万。
「ギャハハハ! 見ろ、たった5人だぞ!」
軍団の先頭に立つのは、魔王軍幹部候補の将軍ザガン。
四本の腕を持つ巨漢の悪魔だ。
「勇者キースラインだと? 笑わせるな! 我が軍の『数の暴力』ですり潰してくれるわ!」
ドシンドシンと地響きを立てて迫る1万の兵士たち。
オーク、ゴブリン、オーガ……。
アリの這い出る隙間もないほどの密集陣形。
対して、キースライン一行は立ち止まったまま動かない。
「……おいおい、リーダー。こいつは骨が折れるぜ?」
ガルドが斧を構えて苦笑する。
「一人で2000匹倒さなきゃならねぇ計算だ」
「……馬鹿か、ガルド」
慎也は、眼鏡の位置を直し、冷ややかな視線で敵の大軍を見渡した。
その瞳には、恐怖ではなく、呆れの色が浮かんでいた。
「一人ずつ相手にするなど、非効率の極みだ。
……あいつらは戦術を知らんのか? これほどの高密度で密集するなど、『私を一網打尽にしてください』と言っているようなものだ」
慎也は一歩前に出た。
「エリス、防壁を張れ。……私たち全員を覆う球形のやつだ」
「は、はい!」
「ナイル、ガルド、ミナ。一歩も外に出るなよ。……巻き込まれるぞ」
仲間たちが訝しげに結界の中に退避する。
慎也は一人、右手を空にかざした。
「……ザガンとか言ったな。貴様に『物理学』の授業をしてやる」
「あぁ!? 何を訳のわからんことを!」
「全軍、突撃ぃぃぃ!!」
1万の魔物が雄叫びを上げて殺到する。
慎也は指先から、小さな、本当に小さな火の粉を一粒だけ生み出した。
「密集状態における熱伝導効率は、距離の二乗に反比例して上昇する。
……さらに、この術式を付与すれば」
彼はその火の粉を、最前列のオークに向けてピンと弾いた。
「戦略級広域殲滅魔法――『連鎖爆砕』」
ヒュン。
火の粉がオークの額に当たる。
パチン。
次の瞬間。
オークの体内で魔力が暴走し、内側から爆発した。
ドォォォン!!
だが、それはただの爆発ではない。
飛び散った肉片と魔力が、隣にいたゴブリンとオーガに付着し、即座に新たな爆発の火種となったのだ。
ドガガガガガガガガッ!!!
1人が2人を巻き込み、2人が4人を、4人が16人を……。
ネズミ算式ならぬ、爆発算式。
高密度に密集していたことが仇となり、爆鎖は瞬きする間に後方へと伝播していった。
「な、なんだ!? 何が起きている!?」
後方にいたザガンが叫ぶ。
目の前の景色が、赤い光に塗り潰されていく。
悲鳴を上げる暇すらない。
ドオオオオオオオオオッ!!
わずか10秒。
荒野を埋め尽くしていた1万の軍勢は、巨大な火柱と共に消滅した。
後に残ったのは、焼け焦げた大地と、ただ一人、結界の外で立ち尽くす将軍ザガンだけ。
「……ば、馬鹿な……」
ザガンは腰を抜かした。
1万の部下が、魔法一発で消えた?
いや、魔法ですらない。ただの「連鎖反応」だ。
「……計算通りだ」
黒煙の中から、無傷の慎也が現れる。
彼は服についた煤を払い、冷徹に告げた。
「貴様の敗因は『数』に頼りすぎたことだ。
個の強さを磨かず、ただ群れるだけの雑魚は、どれだけ集まっても燃料にしかならん」
「ひっ、ひぃぃぃ……!」
「さて、ザガン。……魔王城への『正規ルート(近道)』を案内してもらおうか。
断るなら……貴様も燃料にする」
指先に再び火の粉を灯す慎也。
ザガンは涙と鼻水を垂らして土下座した。
「あ、案内しますぅぅぅ!!」
数の暴力に対する最適解。
それは、相手の数を逆に利用した、最も残酷で効率的な大量破壊だった。
エリスたちは、結界の中でただ呆然と、その圧倒的な光景を見つめていた。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




