第75話 流体力学による巡航速度と、ゴール地点の給水係
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
1月下旬。校内マラソン大会。
寒風吹きすさぶ河川敷コース(男子10km)に、生徒たちの悲鳴に近い溜息が漏れていた。
「うぇ〜、マジだりぃ……」
「なんでこんな寒いのに走らなきゃなんねーんだよ……」
そんな中、ゼッケン1番をつけた慎也だけは、スタートラインで鋭い眼光を放っていた。
「……気温4度、北北西の風5メートル。路面状況、一部凍結あり。
ふむ。消耗戦の様相を呈しているな」
彼は屈伸運動をしながら、隣に並ぶ陸上部のエース、早乙女を見据えた。
「おい、陸上部。貴様のペース配分を申告しろ」
「はぁ? なんでお前に教えなきゃなんねーんだよ、齋藤」
早乙女が睨み返す。
「どうせお前も最初だけだろ? 10kmは長いぜ? スタミナ切れで泣くなよ」
「……愚かだ。私は『切れる』ような無計画なリソース管理はしない」
キースラインは鼻で笑った。
パンッ!
号砲が鳴り響く。
一斉に飛び出す生徒たち。陸上部の集団が先頭を引っ張る。
キースラインは――なんと、集団の真ん中に潜り込んだ。
(……風除け(シールド)確保。空気抵抗係数を最小限に抑える)
彼は陸上部員たちの背後にピタリとつき、風を避けながら淡々と足を運ぶ。
そのフォームは機械のように正確で、無駄な上下動が一切ない。
5km地点。折り返し。
先頭集団が疲れ始める中、キースラインの呼吸は全く乱れていなかった。
「……そろそろか。貴様らのペース(出力)が落ちてきたな」
「なっ、なんだお前!? まだ息が上がってねぇのか!?」
早乙女が驚愕して振り返る。
「私の心拍数は常に一定(アイドリング状態)だ。
……感謝するぞ、肉の壁ども。ここからは単独飛行に移行する」
キースラインの眼鏡がキラリと光った。
「『限定解除』。 スピード30%増速」
ドォン!!
地面を蹴る音が変わった。
キースラインは一瞬で陸上部を置き去りにし、信じられない速度で加速した。
向かい風? 関係ない。それを切り裂くほどの推進力で、彼は独走態勢に入った。
***
ゴール地点。
女子の部は既に終わっており、花憐はタオルとドリンクを持って、男子のトップが帰ってくるのを待っていた。
「そろそろかな……あ、来た!」
遠くに見える人影。
それは、ぶっちぎりで独走するキースラインだった。
「嘘……陸上部より速い!?」
「齋藤くん、すげぇぇ!!」
ざわめくゴール付近。
キースラインは、ゴールテープを切った瞬間も倒れ込むことはなかった。
涼しい顔でタイムを確認し、納得したように頷く。
「……計算通り(オン・タイム)。誤差0.5秒以内か」
「齋藤くん!!」
花憐が駆け寄る。
「すごい! 優勝だよ! おめでとう!」
彼女は満面の笑みでタオルを彼の肩にかけ、スポーツドリンクを差し出した。
「……ああ、参謀」
キースラインはドリンクを受け取り、一気に飲み干した。
「ふぅ。……水分補給完了」
「疲れてないの? 10kmも走ったのに」
「単なる移動行為だ。……だが」
彼はタオルで汗を拭きながら、チラリと花憐を見た。
「ゴールに貴様が待っていると分かっていたからな。
……帰還座標としての機能は優秀だ」
「……え?」
花憐がキョトンとする。
つまり、「花憐が待っているから速く帰ってきた」ということか?
「なっ、なっ……///」
時間差で意味を理解し、真っ赤になる花憐。
周囲の生徒たちからは「ヒューヒュー!」と冷やかしの声が飛ぶ。
「さあ、行くぞ。汗が冷える」
キースラインは当然のように花憐の肩を抱き寄せ(※公衆の面前)、校舎の方へと歩き出した。
「ちょ、ちょっと齋藤くん! みんな見てるから!」
「関係ない。……勝者の特権だ」
マラソン大会という苦行すら、彼にとっては「愛の力を見せつけるステージ」に過ぎなかった。
冬空の下、二人の距離はまた一歩、確実に縮まっていた。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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