第73話 除夜の鐘による煩悩焼却と、運命の改竄(スワップ)
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
12月31日、午後11時30分。
地元の寺院は、除夜の鐘をつく参拝客で長蛇の列を作っていた。
「……寒いな。気温3度。人間の活動限界に近い」
コートの襟を立てた慎也が、白い息を吐く。
「でも、二人で鐘をつくなんて初めてだね!」
隣の花憐は、寒さよりも興奮で頬を赤らめている。
ゴォォォォン……。
腹の底に響く鐘の音。
順番が回ってきた二人は、一本の撞木の綱を一緒に握った。
「せーのっ!」
「……フンッ!」
ゴォォォォン……!
重厚な音が夜空に吸い込まれていく。
「……108の煩悩か」
キースラインは残響を聞きながら呟いた。
「私には無縁だな。……私の欲は『全てを掌中に収めること』ただ一つだ」
「それ、一番大きな煩悩じゃない?」
花憐が呆れて笑う。
***
日付が変わり、1月1日。
そのまま二人は、隣接する神社へ初詣に向かった。
「あけましておめでとう、齋藤くん」
街灯の下、花憐がコートを脱いで見せたのは、鮮やかな赤地に梅の花をあしらった振袖姿だった。
「……どうかな? 変……じゃない?」
少し恥ずかしそうに袖を広げる。
「……」
キースラインは数秒間、瞬きもせずに彼女を見つめた。
(……布面積の増大による防御力の向上。可動域は制限されるが、色彩による精神高揚効果は絶大か)
「……悪くない」
彼は短く評した。
「梅の花言葉は『高潔』。……貴様の参謀としての資質に合致している」
「もーっ! 素直に可愛いって言いなさいよ!」
花憐はぷりぷりと怒りながらも、嬉しそうに彼の手を引いた。
参拝を済ませ、最後におみくじを引くことに。
二人はガラガラと筒を振り、細長い棒を取り出した。
巫女さんから受け取った、二つのおみくじ。
「せーので開こうか」
「承知した」
その瞬間。
キースラインの動体視力(スキル:心眼)が、紙の隙間から文字情報を読み取った。
(……私の手元は『大吉』。花憐の手元は……『凶』か)
新年早々、彼女が落ち込む姿など見たくない。
精神的な動揺は、今後の生徒会運営に支障をきたす――というのは建前で、単純に彼女の笑顔が見たかった。
「……ッ!」
神速の指捌き(スレイ・ハンド)。
花憐が瞬きする0.1秒の間に、キースラインは二つのおみくじを空中で入れ替えた。
「――っ、開いた!」
花憐が叫ぶ。
「やったぁ! 『大吉』だよ、齋藤くん!!」
彼女の手には、すり替えられた『大吉』が握られていた。
「待ち人来る、願い事叶うだって! 嬉しい!」
「……ほう。良かったな、参謀」
キースラインは微笑み、自分の手元の紙を開いた。
そこには無慈悲な『凶』の文字。
「あ……」
覗き込んだ花憐の顔が曇る。
「さ、齋藤くん……『凶』……」
「……ふむ」
「ど、どうしよう。結んで帰ろう? 悪い運気を払ってもらわないと……」
オロオロする花憐。
だが、キースラインは鼻で笑い、そのおみくじを懐にしまった。
「必要ない」
「えっ?」
「たかが紙切れ一枚に、私の運命を左右させる権限などない」
彼は夜空を見上げて断言した。
「凶運など、我が覇気でねじ伏せる。……運命とは、待つものではなく、自らの手で切り開くものだ」
「……齋藤くん……」
あまりの自信に、花憐はポカンとする。
「それに」
キースラインは、花憐の『大吉』を指差して優しく笑った。
「私の参謀が『大吉』ならば、我が生徒会の未来は安泰だ。……貴様の幸運は、私の資産でもあるからな」
「……っ///」
どこまでもポジティブで、どこまでも俺様な慰め方。
でも、それが最高に嬉しかった。
「うん! ……今年もよろしくね、私の王様!」
花憐は満開の笑顔で、彼の腕に抱きついた。
その温もりを感じながら、キースラインは心の中でほくそ笑んだ。
(……安いものだ。この笑顔が守れるなら、『凶』の一つや二つ)
まさに、天然のタラシ。
新年早々、最強勇者のスパダリスキルが炸裂した夜だった。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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