第71話 聖夜の商業的陰謀と、繰り越される決算
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
12月24日。クリスマスイブ。
街はイルミネーションに彩られ、校内も浮き足立ったカップルたちで溢れかえっていた。
放課後の生徒会室。
副会長の天道花憐は、少しお洒落なコートを着て、鞄の中に「手編みのマフラー(プレゼント)」を忍ばせ、期待に胸を膨らませていた。
(……修学旅行であんなことあったし、美術館でもいい感じだったし……今日こそは、きっと……!)
彼女は、デスクに向かうキースラインの背中を熱い視線で見つめた。
さあ、言って。
「今日は早く切り上げて、ディナーに行こう」と。
しかし。
「……ふん。非効率の極みだな」
キースラインは、パソコンのキーボードを機関銃のような速度で叩きながら吐き捨てた。
「えっ? なにが?」
「この時期の物流コストだ。フライドチキンの価格高騰率300%、ケーキの廃棄ロス、そして電力の過剰消費。
……全ては企業の決算対策に過ぎん」
カチャカチャカチャッ!!(エンターキーを強打)
「よって、我々生徒会は、この『集団催眠』には屈しない。
……おい参謀、部費の決算処理は終わったか? 今日中に終わらせるぞ」
「え……えええーっ!?」
花憐が素っ頓狂な声を上げた。
「き、今日だよ!? イブだよ!? 決算なんて明日でもいいじゃない!」
「何を言う。……年末に向けたタスク処理は、一日たりとも遅延させるわけにはいかん」
キースラインは真顔で眼鏡を直した。
「浮かれた連中が遊んでいる間に、我々が地盤を固める。……これぞ王者の戦略だ」
「うぅぅ……」
花憐はがっくりと項垂れた。
王者の戦略とかどうでもいい。私はデートがしたいの!
***
結局。
二人が生徒会室を出たのは、夜の8時過ぎだった。
校舎は真っ暗。外は粉雪が舞っている。
「……はぁ。疲れた」
花憐はため息をついた。
結局、プレゼントを渡すタイミングも逃してしまった。
駅までの道、イルミネーションの中を歩くカップルたちが恨めしい。
「……参謀」
不意に、前を歩くキースラインが足を止めた。
「な、なに?」
少し期待して顔を上げる。
「やっぱりどこか寄ろうか?」と言ってくれるのか?
キースラインは、ポケットから缶コーヒー(ホット)を取り出し、花憐の頬にピッと押し当てた。
「ほら。……燃料補給だ」
「あつっ! ……これだけ?」
「文句を言うな。……今日の労働に対する対価は、後日支払う」
「え?」
キースラインは、雪空を見上げて言った。
「キリストの誕生日は私には関係ないが……『暦の更新』は、新たなサイクルの始まりとして重要だ」
彼は花憐を見た。
「1月1日。……空けておけ」
「えっ……?」
「初詣という日本の風習……あれは興味深い。
一年の計を神に誓う儀式。……王として、その場の『気』を視察しに行く必要がある」
彼はニヤリと笑った。
「貴様も同行しろ。……振袖(晴れ着)というやつの機動性も、チェックしてやる」
「……!」
それは、実質的な「元日デート」の申し込みだった。
クリスマスという「洋風の祭り」をスルーして、あえて伝統的な「和の行事」を選ぶ。
へそ曲がりな彼らしい選択。
花憐の機嫌は、一瞬で直った。
「……もう! 最初からそう言ってよ!」
彼女は缶コーヒーを握りしめ、嬉しそうに笑った。
「分かった。……絶対、すっごく可愛いの着ていくからね! 覚悟しててよ、会長!」
「フン。……期待値のハードルを上げるな」
聖夜のロマンスは不発に終わった。
だが、その代わりに約束された「一年の始まり」は、クリスマスよりもずっと特別な一日になりそうだった。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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