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第69話 抽象画の論理的解釈と、隣に立つミューズ

【担当:慎也】

僕の日常がこれ以上壊れませんように……。

本編スタートです。


 12月最初の日曜日。

 期末テストを前にした束の間の休日、慎也キースラインと花憐は、都内の美術館を訪れていた。


「……ふむ。静かだ」


 ロングコートを羽織り、マフラーを巻いたキースラインは、高い天井を見上げて呟いた。


「空調管理、湿度維持、照明の角度……全てが『保存』のために最適化されている。……死んだ情報を安置する霊廟のようだ」

「もう、霊廟とか言わないの」


 花憐がクスクスと笑い、彼の腕に手を回す。

 今日はニットのワンピースにベレー帽という、少し大人びた「芸術の秋(もう冬だけど)」スタイルだ。


「今日は感性を磨くデートなの。ほら、行こう?」


 ***


 【第1展示室:印象派と光の表現】

「わぁ……綺麗。この『睡蓮』、光の粒が踊ってるみたい」


 花憐が絵の前でうっとりと溜息をつく。

 しかし、キースラインは絵の至近距離まで顔を近づけ、眉をひそめていた。


「……解像度が低いな」

「えっ?」

「遠目で見れば風景として認識できるが、近くで見るとただの色の斑点だ。……これは人間の脳の『錯覚補完機能』を利用した、省エネ描写(データ圧縮)の手法か?」

「違うよ! それが筆致タッチの良さなの!」


 【第2展示室:現代アート・抽象画】

 壁一面に、赤と黒の絵の具が乱雑にぶちまけられたような巨大なキャンバス。

 タイトルは『内なる叫び』。


「……これは、事故現場か?」


 キースラインが真顔で尋ねる。


「違うってば! 作者の情熱を表現してるの!」

「……理解不能だ。この塗料の飛散パターン……計算されたものではない。ただの乱数ランダムだ」


 彼は腕を組み、冷徹に分析し始めた。


「だが待てよ……。この赤の配置、高度な『精神汚染魔法』の術式陣に似ているな……。もしや、これを見た者の精神を不安定にさせるための罠か?」

「考えすぎ! ただのアートだから!」


 花憐は呆れつつも、彼の独特すぎる視点を楽しんでいた。


 ***


 一通り回り終え、最後にたどり着いたのは、一点の【肖像画】の前だった。


 中世の貴婦人を描いた、写実的で美しい絵画。

 『永遠の美』というタイトルがついている。


「……ふん」


 キースラインは、その絵を前にして初めて足を止めた。


「……どう? この絵は気に入った?」

「……技術は悪くない」


 彼は偉そうに評した。


「対象の特徴を正確に捉え、二次元の平面に三次元の情報を落とし込んでいる。……だが」


 彼はふっと鼻で笑い、隣の花憐を見た。


「この絵の女には、『熱』がない」

「熱?」

「ああ。固定された時間は美しいが、そこには変化も成長もない。……ただの記録だ」


 キースラインは、花憐の手をそっと握った。

 その手は温かい。


「私にとっての『美』とは、生きて、動き、私の思考に干渉してくる存在だ」


 彼は真っ直ぐに花憐の瞳を見つめた。


「この美術館にある数億ドルのコレクション全てを合わせても……今、私の隣で笑っている貴様という『存在アート』の価値には遠く及ばん」

「……っ///」


 静かな展示室。

 誰にも聞こえない声での、最上級の賛辞。

 花憐の顔が、展示されているどの絵画よりも鮮やかに赤く染まった。


「……もう……齋藤くんってば……」

「事実だ。……行くぞ、花憐。ここは寒すぎる。生きた人間の体温を感じたい」


 美術館を出た二人。

 冬の空の下、繋いだ手と手の間には、どんな名画にも描けない温かな空気が流れていた。


【事後分析報告】

読んでくれてありがとうございます。慎也です。

また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?


今後のデータの参考にするため、よろしければ「ブックマーク」と、下にある【★★★★★】で評価を入力していただけると助かります。


皆さんの応援エネルギーが、僕たちの生存確率を上げます。よろしくお願いします。


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