表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/78

第68話 熱暴走する聖女と、独占契約の締結

【担当:キース】

脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?

開戦だ。



 隠れ家の一室。

 薄暗い部屋には、暖炉の薪がパチパチと爆ぜる音だけが響いていた。


「……ふぅ。体温38.2度。脈拍は安定してきたか」


 慎也キースラインは、ベッドの脇で絞ったタオルをエリスの額に乗せた。


 魔力を使い果たした反動による高熱。

 それは「魔力欠乏症」と呼ばれる、魔法使い特有の命に関わる症状だ。


「……う……ん……」


 エリスが苦しげに寝返りを打つ。

 普段の凛とした聖女の姿とは違う、無防備で弱々しい少女の顔。


 慎也は、彼女の手を握り続けていた。

 自分の魔力を、彼女の回路へと少しずつ流し込む「魔力パス(点滴)」を行うためだ。


「……手間のかかるメインエンジンだ」


 口ではそう悪態をつきながらも、慎也の手つきは優しかった。


 汗で張り付いた前髪を払い、冷えた水を口に含ませる。


 その時。

 エリスのまつ毛が震え、うっすらと瞳が開かれた。


「……キース、ライン……様……?」


 焦点が合っていない、虚ろな瞳。

 夢と現実の区別がついていないようだ。


「……私だ。喋るな、エネルギーの無駄だ」


 慎也が静かに諭す。

 だが、エリスはふにゃりと力なく微笑んだ。


「……暖かい……」


 彼女は、握られた慎也の手を、自分の頬に擦り寄せた。


「昔の貴方なら……こんなこと、してくれなかった……」

「……人は変わるものだ。学習と適応の結果だ」

「ふふ……今の貴方は……優しい……」


 エリスの瞳が潤み、熱っぽい視線が慎也を射抜く。

 それは、敬愛や信仰心ではない。

 もっと根本的な、女としての情動。


「……ずっと、好きでした」


 小さな、けれどはっきりとした言葉。


「あの傲慢な貴方も……今の優しい貴方も……全部」


 彼女は慎也の手を強く握り返した。


「聖女としてじゃなく……エリスとして。……貴方の隣にいたい……」

「……」


 慎也は息を呑んだ。

 これは熱による譫言うわごとかもしれない。

 だが、その瞳にある熱は、紛れもない真実だった。


(……参ったな。計算外のエラーだ)

 慎也は苦笑した。


 しかし、彼は逃げなかった。

 合理主義者の彼が出した結論は、「拒絶する理由がない」だったからだ。


「……承認する」


 慎也は、もう片方の手でエリスの頬を包み込んだ。


「貴様の想い(リクエスト)、確かに受領した」

「……え……?」

「私も、貴様以外に背中を預けるつもりはない。……これより、貴様を私の『唯一のパートナー』として再定義する」


 キースラインの顔が近づく。

 エリスは目を見開き、そして幸福そうに目を閉じた。


 ――重なる唇。

 それは、魔力供給のための事務的な接触ではない。

 互いの体温と想いを確かめ合う、深く、甘い口づけだった。


「……んっ……」


 長い口づけの後、エリスは安心して深い眠りへと落ちていった。

 慎也はその寝顔を見つめながら、小さく呟いた。


「……責任は取るさ。勇者だからな」


 ***


 翌朝。

 小鳥のさえずりと共に、エリスは目を覚ました。

 熱はすっかり下がっている。


「……ん、あれ? 私……」


 体を起こすと、ベッドの横の椅子で、慎也が腕を組んで仮眠をとっていた。

 その姿を見て、昨夜の記憶がフラッシュバックする。


 『ずっと、好きでした』

 『今の優しい貴方も……全部』


 そして、交わした口づけの感触。


「――――ッ!!?」


 エリスの顔が、一瞬で茹でダコのように真っ赤になった。


(い、い、言っちゃったぁぁぁ!! しかも、キスまでぇぇぇ!?)

 両手で口を押さえ、ベッドの上でバタバタと身悶える。

 夢じゃない。唇に残る感触がリアルすぎる!


「……騒がしいな」


 慎也が片目を開けた。


「おはよう、エリス。……熱は引いたようだな」

「あ、あ、あのっ! キースライン様! さ、昨夜のことは、その、熱のせいで、私が勝手に……!」


 しどろもどろになるエリス。

 しかし、慎也はいつもの真顔で、とんでもないことを言った。


「何を慌てている? 『契約』は既に締結された」

「へ?」

「貴様は私の女だ。……それとも、私のキスが不服だったか?」

「~~~~ッ!!」


 エリスは湯気を吹いてフリーズした。

 否定されない。受け入れられている。しかも「私の女」公認。


「あ……うぅ……」


 彼女はシーツを頭まで被り、その中から蚊の鳴くような声を出した。


「……ふ、不服じゃ……ないです……///」


 朝の光の中。

 二人の関係は、もう「勇者と聖女」だけではなかった。

 完全に進展した恋人同士の、初々しい朝がそこにあった。


【総統通達】

読者諸君。我だ。

あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。


まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。


良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ