第68話 熱暴走する聖女と、独占契約の締結
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
隠れ家の一室。
薄暗い部屋には、暖炉の薪がパチパチと爆ぜる音だけが響いていた。
「……ふぅ。体温38.2度。脈拍は安定してきたか」
慎也は、ベッドの脇で絞ったタオルをエリスの額に乗せた。
魔力を使い果たした反動による高熱。
それは「魔力欠乏症」と呼ばれる、魔法使い特有の命に関わる症状だ。
「……う……ん……」
エリスが苦しげに寝返りを打つ。
普段の凛とした聖女の姿とは違う、無防備で弱々しい少女の顔。
慎也は、彼女の手を握り続けていた。
自分の魔力を、彼女の回路へと少しずつ流し込む「魔力パス(点滴)」を行うためだ。
「……手間のかかるメインエンジンだ」
口ではそう悪態をつきながらも、慎也の手つきは優しかった。
汗で張り付いた前髪を払い、冷えた水を口に含ませる。
その時。
エリスのまつ毛が震え、うっすらと瞳が開かれた。
「……キース、ライン……様……?」
焦点が合っていない、虚ろな瞳。
夢と現実の区別がついていないようだ。
「……私だ。喋るな、エネルギーの無駄だ」
慎也が静かに諭す。
だが、エリスはふにゃりと力なく微笑んだ。
「……暖かい……」
彼女は、握られた慎也の手を、自分の頬に擦り寄せた。
「昔の貴方なら……こんなこと、してくれなかった……」
「……人は変わるものだ。学習と適応の結果だ」
「ふふ……今の貴方は……優しい……」
エリスの瞳が潤み、熱っぽい視線が慎也を射抜く。
それは、敬愛や信仰心ではない。
もっと根本的な、女としての情動。
「……ずっと、好きでした」
小さな、けれどはっきりとした言葉。
「あの傲慢な貴方も……今の優しい貴方も……全部」
彼女は慎也の手を強く握り返した。
「聖女としてじゃなく……エリスとして。……貴方の隣にいたい……」
「……」
慎也は息を呑んだ。
これは熱による譫言かもしれない。
だが、その瞳にある熱は、紛れもない真実だった。
(……参ったな。計算外のエラーだ)
慎也は苦笑した。
しかし、彼は逃げなかった。
合理主義者の彼が出した結論は、「拒絶する理由がない」だったからだ。
「……承認する」
慎也は、もう片方の手でエリスの頬を包み込んだ。
「貴様の想い(リクエスト)、確かに受領した」
「……え……?」
「私も、貴様以外に背中を預けるつもりはない。……これより、貴様を私の『唯一のパートナー』として再定義する」
キースラインの顔が近づく。
エリスは目を見開き、そして幸福そうに目を閉じた。
――重なる唇。
それは、魔力供給のための事務的な接触ではない。
互いの体温と想いを確かめ合う、深く、甘い口づけだった。
「……んっ……」
長い口づけの後、エリスは安心して深い眠りへと落ちていった。
慎也はその寝顔を見つめながら、小さく呟いた。
「……責任は取るさ。勇者だからな」
***
翌朝。
小鳥のさえずりと共に、エリスは目を覚ました。
熱はすっかり下がっている。
「……ん、あれ? 私……」
体を起こすと、ベッドの横の椅子で、慎也が腕を組んで仮眠をとっていた。
その姿を見て、昨夜の記憶がフラッシュバックする。
『ずっと、好きでした』
『今の優しい貴方も……全部』
そして、交わした口づけの感触。
「――――ッ!!?」
エリスの顔が、一瞬で茹でダコのように真っ赤になった。
(い、い、言っちゃったぁぁぁ!! しかも、キスまでぇぇぇ!?)
両手で口を押さえ、ベッドの上でバタバタと身悶える。
夢じゃない。唇に残る感触がリアルすぎる!
「……騒がしいな」
慎也が片目を開けた。
「おはよう、エリス。……熱は引いたようだな」
「あ、あ、あのっ! キースライン様! さ、昨夜のことは、その、熱のせいで、私が勝手に……!」
しどろもどろになるエリス。
しかし、慎也はいつもの真顔で、とんでもないことを言った。
「何を慌てている? 『契約』は既に締結された」
「へ?」
「貴様は私の女だ。……それとも、私のキスが不服だったか?」
「~~~~ッ!!」
エリスは湯気を吹いてフリーズした。
否定されない。受け入れられている。しかも「私の女」公認。
「あ……うぅ……」
彼女はシーツを頭まで被り、その中から蚊の鳴くような声を出した。
「……ふ、不服じゃ……ないです……///」
朝の光の中。
二人の関係は、もう「勇者と聖女」だけではなかった。
完全に進展した恋人同士の、初々しい朝がそこにあった。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




