第67話 偽りの聖水と、隠された献身
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
王都の貧民街。
そこでは今、原因不明の熱病「黒錆病」が蔓延していた。
「ゴホッ、ゴホッ……! 助けてくれ……」
「ママ、苦しいよ……」
路地裏には病人が溢れかえっている。
だが、教会が派遣した神官たちは、高価な瓶を売り歩くだけだった。
「さあ、勇者レオン様が祈りを込めた『特製聖水』だ!
金貨1枚で販売するぞ! 金がない奴は祈れ! 祈れば救われる!」
――そんなわけがない。
瓶の中身は、ただの薄めた薬草水だ。
飲んだ人々は一時的に痛みが引くものの、すぐに熱がぶり返し、さらに苦しんで死んでいく。
その惨状を、廃ビルの屋上から見下ろしている5人の影があった。
慎也たちだ。
「……ひどい。ひどすぎます」
聖女エリスが、震える声で呟いた。
彼女の瞳には涙が溜まっている。
「私がいないのをいいことに、あんな偽物を売りつけるなんて……。あれでは治りません。ただ死期を早めるだけです」
「……あいつら、腐ってやがる」
ガルドが斧を握りしめる。ナイルも悔しそうに拳を壁に叩きつけた。
慎也は、静かに眼鏡を押し上げた。
その表情は冷徹だが、決して楽しんでなどいない。静かな怒りが燃えていた。
「……労働力の損失だ。それに、非科学的な『信仰商法』で民の資産を搾取するシステム……極めて不愉快だ」
彼はエリスを見た。
「どうする、エリス。ここを去るか? 我々の目的は枢機卿の失脚だ。この街を見捨てるという選択肢も、計算上はあり得るが」
「いいえ!」
エリスは即答した。
「見捨てられません! 私は聖女です。……教会に見捨てられたとしても、神に誓った『人々を救う』という使命だけは、嘘にしたくない!」
彼女は杖を構えた。
「キースライン様。……広域浄化魔法を使います。
この街全体を覆う規模で。……魔力反応で居場所がバレるかもしれませんが、それでも」
「……許可する」
慎也は短く言った。
そして、ニヤリと笑った。
「ただし、バレるのは困る。……私が『ジャミング(魔力妨害)』を行う。
ナイル、ガルド、ミナ。四方に散らばって魔力撹乱装置を設置しろ。
エリスの魔力を、自然現象に見せかける」
「了解っス!」
***
数分後。
貧民街の夜空に、淡く美しい光の粒子が降り注いだ。
「なんだ……? 雪か?」
「いや、温かい……」
光の粉を浴びた病人たちの体が、みるみるうちに回復していく。
黒ずんでいた肌が白く戻り、荒い呼吸が穏やかになる。
それは、薬草水などとは次元の違う、本物の「聖女の奇跡」だった。
「治った……! 痛くないぞ!」
「奇跡だ……! 神様が見ていてくださったんだ!」
人々が歓喜の声を上げる中、屋上のエリスはその場に崩れ落ちそうになった。
「はぁ……はぁ……っ」
広範囲への行使。魔力の枯渇。
倒れ込む彼女の体を、横から支える腕があった。
「……無茶をする」
慎也だった。
彼はエリスの体を軽々と抱き留めた。
「計算外の魔力消費量だ。……だが、効率は悪くない。これで民衆は『本物の奇跡』を知った。
教会の偽聖水など、二度と売れなくなるだろう」
「……キースライン、様……」
エリスは薄れゆく意識の中で、彼の顔を見上げた。
いつもの冷たい顔。でも、自分を支える腕は温かい。
(ああ……やっぱり貴方は、優しい勇者様です……)
エリスは安堵の息を吐き、そのまま慎也の腕の中で気を失った。
慎也は彼女を「お姫様抱っこ」の状態で抱え上げ、静かに命じた。
「撤収だ。……聖女がオーバーヒートした。
これより冷却と魔力補給を行う」
街の人々は知らなかった。
自分たちを救ったのが、教会が見捨てた「死んだはずの勇者」と「追放された聖女」であることを。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




