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第66話 南十字星の引力と、計算外の口づけ

【担当:慎也】

僕の日常がこれ以上壊れませんように……。

本編スタートです。


 オーストラリア修学旅行、3日目。

 この日は班別行動……という名の、実質的な自由時間だった。


 港町シドニーの夕暮れ。

 オレンジ色に染まる海と、オペラハウスのような独創的な建築群。


「……ふむ。あの貝殻のような構造体、音響効果を計算した結果か、それとも単なる芸術か」


 キースラインは腕を組み、港を歩きながら建築批評をしていた。

 だが、その服装は制服ではない。

 現地のブティックで花憐に選んでもらった、白の麻シャツにサングラスという、「休暇中の若手実業家」のような出で立ちだ。


「もう、理屈は禁止! 今日はデートなんだから!」


 隣を歩く花憐も、涼しげなサマードレス姿。

 彼女は大胆にキースラインの腕に抱きつき、上目遣いで彼を見る。


「ね? 齋藤くん」

「……了解した。本日のミッションは『休暇の堪能』だ」


 キースラインは溜め息をつきつつも、その腕を振りほどきはしなかった。


 二人は、シーフードレストランで牡蠣やロブスターを楽しみ(キースラインは「甲殻類の殻を割る効率的な角度」について熱弁したが)、夜の海沿いを散歩した。


 周囲は異国のカップルや観光客ばかり。

 誰も自分たちのことを知らない、完全に自由な空間。

 心地よい海風が、二人の頬を撫でる。


「……見て、齋藤くん。南十字星サザンクロスだよ」


 桟橋の先端。

 花憐が夜空を指差した。

 日本では見られない、南半球の星座が輝いている。


「……ほう」


 キースラインが見上げる。


「あれが天の南極を示す指針か。……かつての大航海時代、船乗りたちはあの星を頼りに未知の海を渡ったわけだ」

「ロマンチックだよね。……道標みちしるべって感じで」


 花憐が手すりに寄りかかり、海を見つめる。

 その横顔は、街灯の光を浴びて、どこか大人びて見えた。


「……私にとっての道標は、齋藤くんだよ」


 彼女は静かに言った。


「齋藤くんがいてくれるから、私はどこへだって行けるの。……たとえ、こんな遠い国でも」

「……」


 キースラインは言葉を失った。

 普段の彼なら、「過大評価だ」と否定するか、「当然だ」と傲慢に返す場面だ。


 だが、この異国の夜風が、彼の思考回路を少し狂わせていた。


(……逆だ、花憐)


 彼は心の中で呟く。


(私が「王」として在れるのは、貴様という「理解者」が隣にいるからだ。……貴様がいなければ、私はただの孤独な暴君に過ぎん)


 彼は無言で一歩踏み出し、花憐の隣に立った。

 そして、彼女の腰に手を回し、自分の方へ引き寄せた。


「え……?」


 花憐が驚いて顔を上げる。

 至近距離にある、キースラインの瞳。そこには、いつもの冷徹な光ではなく、熱っぽい何かが揺らめいていた。


「……道標が必要なのは、私の方かもしれん」

「え……」

「この広大で非効率な世界において、貴様という存在だけが、私にとって唯一の『確定事項(真実)』だ」


 それは、彼なりの最大限の愛の告白だった。

 花憐の目が潤む。


「齋藤くん……」


 波音が、静かに響く。

 周囲の喧騒が遠のいていく。

 キースラインの顔がゆっくりと近づく。

 花憐は目を閉じ、顎を上げた。


 ――そして。

 唇が触れ合う、ほんの数センチ手前で。


「……ん?」


 キースラインがピタリと止まった。


「……え? な、なに?」


 花憐が慌てて目を開ける。

 キースラインは、花憐の背後の海――その彼方を、鋭い眼光で睨みつけていた。


「……空間座標の歪みを感知した。……この魔力波長、まさか……」

「ちょ、ちょっと! 今いいところだったのに!」

「静粛に。……デートは中断だ、参謀」


 彼はサングラスをかけ直し、瞬時に「戦闘モード」へと切り替わった。


日本あちらではない。……異世界むこうで、何かが起きたようだ。……それも、特大の何かが」


 ロマンチックな空気は一変。

 南十字星の下、勇者の勘が告げていた。

 反撃の時が来たのだと。





「……私にとっての道標は、齋藤くんだよ」


 花憐は静かに言った。


「齋藤くんがいてくれるから、私はどこへだって行けるの。……たとえ、こんな遠い国でも」

「……」


 キースラインは言葉を失った。

 普段の彼なら、「過大評価だ」と否定するか、「当然だ」と傲慢に返す場面だ。


 だが、この異国の夜風と、南十字星の輝きが、彼の思考回路を完全に狂わせていた。


(……逆だ、花憐)

 彼は心の中で呟く。


(私が「王」として在れるのは、貴様という「理解者」が隣にいるからだ。……貴様がいなければ、私はただの孤独な暴君に過ぎん)

 彼は無言で一歩踏み出し、花憐の隣に立った。

 そして、彼女の腰に手を回し、自分の方へ引き寄せた。


「え……?」


 花憐が驚いて顔を上げる。

 至近距離にある、キースラインの瞳。そこには、いつもの冷徹な光ではなく、熱っぽい何かが揺らめいていた。


「……道標が必要なのは、私の方かもしれん」

「え……」

「この広大で非効率な世界において、貴様という存在だけが、私にとって唯一の『確定事項(真実)』だ」


 それは、彼なりの最大限の愛の告白だった。

 花憐の目が潤む。


「齋藤くん……」


 波音が、静かに響く。

 周囲の喧騒が遠のいていく。

 誰の視線も気にしなくていい、二人だけの世界。


 キースラインの顔がゆっくりと近づく。

 花憐は目を閉じ、顎を上げた。

 ――今度は、誰も邪魔しなかった。

 ふわり。

 触れたのは、唇ではなく、額だった。

 だが、それは触れるだけの挨拶ではなく、熱を持った、長く、愛おしむようなキスだった。


「……っ///」


 花憐の肩が跳ねる。

 数秒後、キースラインがゆっくりと顔を離した。

 その表情は、少しだけ照れくさそうで、でも満足げだった。


「……今日はここまでだ。これ以上の接触コンタクトは、心拍数が危険域に達する」


 彼はわざとらしく咳払いをした。


「行くぞ、花憐。ホテルへ戻る。……風が冷たくなってきた」

「……う、うん……」


 花憐は顔を真っ赤にして頷いた。

 額に残る熱。

 唇ではなかったけれど、それは「大切にされている」ことが痛いほど伝わる、最高のファーストステップだった。


 二人は手を繋いで歩き出した。

 その手は、来る時よりもずっと強く、しっかりと握られていた。


 南半球の星空の下。

 勇者と参謀の「契約」は、より強固な「絆」へと書き換えられたのだった。


【事後分析報告】

読んでくれてありがとうございます。慎也です。

また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?


今後のデータの参考にするため、よろしければ「ブックマーク」と、下にある【★★★★★】で評価を入力していただけると助かります。


皆さんの応援エネルギーが、僕たちの生存確率を上げます。よろしくお願いします。


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