第61話 球体弾道学と、独裁者のフィールド
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
10月。秋晴れの空の下、体育祭のクラス対抗サッカー決勝戦。
対戦相手は、サッカー部のエース・ストライカー豪田を擁する優勝候補のクラスだった。
「へっ、相手は齋藤か。最近調子乗ってるらしいが、サッカーは格闘技じゃねぇんだよ。テクニックで捻ってやるぜ」
豪田は余裕の笑みでボールを回していた。
一方、キースラインはゴールポストに寄りかかり、冷ややかな目でフィールドを俯瞰していた。
「……狭いな。この程度の面積なら、私一人で制圧可能だ」
試合開始のホイッスルが鳴る。
豪田が華麗なドリブルで攻め上がる。
「らぁ! 抜いた!」
ディフェンダーを次々とかわし、ゴール前へ。
キーパーと一対一。
――その瞬間。
ドォン!!
という重い衝撃音と共に、ボールが弾き飛ばされた。
「なっ!?」
豪田が目を見開く。
いつの間にか、ゴール前にキースラインが立っていた。
キーパーですらない。ただのフィールドプレイヤーなのに、音速のタックルでボールを奪取したのだ。
「遅い。貴様のドリブルの軌道は、予測演算するまでもなく直線的すぎる」
キースラインはボールを足元に収めると、敵陣を見据えた。
「くそっ、囲め! 奪い返せ!」
サッカー部員たちが殺到する。
同時に、味方のクラスメイトも叫んだ。
「齋藤! パスだ! フリーだぞ!」
だが、キースラインは味方すら無視した。
「パス? 無意味だ。貴様らに渡してもゴール率は15%未満。私が蹴れば100%。……どけ、射線が塞がる」
彼は味方の肩を掴んで強引に横へ排除すると、自陣のペナルティエリア付近から、右足を大きく振りかぶった。
「は? ここから撃つ気か!? バカじゃねーの!」
敵も味方も嘲笑した。
距離は50メートル以上。届くわけがない。
「……マグヌス効果による偏向、および空気抵抗係数の計算完了」
キースラインが呟く。
ドゴォォォォォン!!!
蹴り出されたボールは、大砲のような音を立てて空を裂いた。
それは一度上空へ舞い上がり、キーパーが「枠外だ」と判断して見送った瞬間――物理法則を無視した急激なカーブを描いて落下した。
ズドォォン!!
ゴールネットを突き破りそうな勢いで、ボールが突き刺さる。
超長距離ドライブシュート。
「な……!?」
静まり返るグラウンド。
数秒後、割れんばかりの歓声が爆発した。
「キャァァァァッ!! 齋藤くん凄すぎぃぃ!!」
「何あれ!? 日本代表レベルじゃん!」
「クール! 独裁者みたいでカッコいいー!!」
女子たちの黄色い声援が降り注ぐ。
一方、プライドを粉々にされたサッカー部の豪田は膝から崩れ落ちた。
「う、嘘だろ……俺のテクニックが、あんなパワープレイに……」
その後もキースラインは止まらなかった。
敵のシュートは全て身体能力でブロックし、攻めては味方を「障害物」として利用しつつ、ハットトリックを決める。
ワンマンアーミー。
フィールドには、彼という「王」と、その他大勢しかいなかった。
試合終了後。
汗を拭うキースラインの周りには、他校の女子生徒まで含めたファンクラブが出来上がっていた。
「齋藤くん! タオル使ってください!」
「ドリンクどうぞ!」
「踏んでください!」
「……騒がしい」
キースラインは鬱陶しそうに髪をかき上げただけだったが、その仕草だけでさらに数人が卒倒した。
遠くで見ていた花憐は、膨れっ面で呟いた。
「……もう。またライバルが増えちゃったじゃない」
体育祭のヒーローは、爽やかなスポーツマンではなく、傲岸不遜な独裁者だった。
だが、それが逆に女子たちのマゾヒズム……もとい、乙女心を刺激してしまったようである。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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