第60話 要塞都市の怪談、見えざる断罪者たち
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
要塞都市バルカンは、阿鼻叫喚の地獄と化していた。
城壁は崩れ、魔王軍の兵士たちが雪崩れ込む。
「逃げろ! 殺されるぞ!」
「勇者様は!? レオン様はどこだ!?」
「逃げた! あの腰抜けは俺たちを見捨てたんだ!」
絶望が連鎖する。
広場では、魔王軍将軍バルガスが巨大な戦斧を振るい、兵士たちを薙ぎ払っていた。
「グハハハ! 脆い、脆すぎるぞ人間ども! 貴様らの希望(勇者)は尻尾を巻いて逃げ出したわ!」
バルガスが逃げ遅れた母子に狙いを定める。
「まずは貴様らからミンチにしてくれる!」
巨大な斧が振り下ろされる――。
母親は子供を抱きしめ、ギュッと目を瞑った。
(……助けて……キースライン様……!)
ヒュン。
風切り音がした。
だが、衝撃は訪れなかった。
恐る恐る目を開けた母親は、信じられない光景を目にした。
「……あ?」
目の前にいたはずのゴブリンの首が、何の前触れもなく宙を舞っていたのだ。
血飛沫すら上がらない、あまりに鋭利な切断面。
「な、何が……?」
周囲を見回す。
次の瞬間、隣にいたオークが、音もなく崩れ落ちた。心臓を何かに貫かれている。
「……誰か、いるの?」
姿は見えない。声も聞こえない。
だが、確実に「誰か」が、魔物たちを一方的に屠っている。
***
(……ターゲット・アルファ、沈黙。次はベータ、ガンマ、デルタ。同時処理する)
戦場を風のように駆け抜ける影があった。
漆黒のフードを目深に被った慎也である。
彼は「勇者の膂力」と「敏捷性」をフル活用していたが、一切の魔力光を発していなかった。
魔力を隠蔽し、物理的な音を消し、認識を阻害する超高速移動。
それは、科学的なアプローチによる「光学迷彩」に近い戦闘機動だった。
(首の頸動脈、心臓の大動脈、延髄。……急所のみを正確に破壊する。エネルギーロスは最小限に)
シュッ、シュッ、シュッ。
すれ違いざまに、慎也の持つ短剣(音が出ないよう、あえて聖剣は使っていない)が魔物の命を刈り取っていく。
他のメンバーも同様だった。
ナイルは影から影へと移動し、指揮官クラスの魔族の喉を切り裂く。
ガルドは布で包んだ斧で、音を立てずに敵の頭蓋骨を粉砕する。
ミナの拳は風を切る音すら置き去りにし、エリスの見えざる結界が民衆を流れ弾から守る。
5人の「幽霊」による、完璧な連携。
「ええい、何が起きている!? 誰か報告しろ!」
異変に気づいた将軍バルガスが吼える。
部下の数が、見る間に減っているのだ。それも、戦闘の痕跡すらなく。
「わ、分かりません! 敵の姿が見えません!」
「突然、味方が倒れて……ヒィッ!?」
報告していた部下の首が、バルガスの目の前で飛んだ。
「き、貴様ぁぁぁ!! どこだ! 出てこい卑怯者ぉぉ!!」
バルガスが闇雲に斧を振り回す。恐怖で顔が引きつっている。
「見えない敵」ほど恐ろしいものはない。
その時。
バルガスの耳元で、冷徹な囁き声がした。
「……騒ぐな。これは『清掃作業』だ」
「!??」
バルガスが振り返るより速く。
慎也の手刀が、バルガスの首筋――迷走神経叢に突き刺さった。
ドサッ。
鋼鉄の巨体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。気絶だ。
慎也は彼を殺さなかった。
「正体不明の敵に、将軍が一瞬で無力化された」という恐怖を拡散させるためである。
「ひっ、ひぃぃぃ! バ、バルガス様がやられた!?」
「逃げろ! ここには『何か』がいる!」
「見えない死神だぁぁぁ!」
指揮系統を失った魔王軍は、パニックに陥り、我先にと撤退を始めた。
やがて、静寂が訪れた。
助かった民衆や兵士たちは、呆然と周囲を見回した。
そこには、魔物の死体の山と、無傷の自分たちだけが残されていた。
「……誰が、助けてくれたんだ?」
「姿は見えなかった……でも、すごく強くて、優しい風のような……」
「まさか……神の使いか?」
「いや、もしかしたら……」
誰かが、願いを込めて呟いた。
「キースライン様が、魂となって守ってくれたんじゃ……」
その夜。
バルカンの街を救った「見えざる5人の影」の噂は、吟遊詩人たちによって瞬く間に国中へ広がっていった。
偽勇者が逃げ出した街を救った、名もなき英雄たちの伝説として。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




