第6話 精神はSランク、肉体はEランク
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
翌日、学校にて。
キースラインは、机の上の教科書を睨みつけていた。
(……読める。なぜか読めるぞ)
昨日、混乱していて気づかなかったが、この世界の複雑怪奇な文字(漢字とカタカナ)が、まるで母国語のように頭に入ってくる。
どうやらあのふざけた神が、言語理解の能力だけは与えたらしい。
「ふん、当然だ。この俺に赤点を取らせて笑い者にするつもりだったのだろうが、そうはいかん」
キースラインは不敵に笑い、教科書を閉じた。
知識の問題はクリアだ。ならば、次は――。
「よし、次は体育だ! 全員グラウンドへ移動!」
号令がかかる。
体育。それは、この軟弱な世界における「模擬戦」に他ならない。
(ようやくか。座学ばかりで体が鈍っていたところだ)
キースラインは口元を歪めた。
魔法は使えずとも、剣技と体術を極めたこの俺だ。球遊び程度、児戯に等しい。
慎也という男は軟弱そうだが、俺の魂が入った今、体の使い方は劇的に改善されているはずだ。
グラウンドに出ると、男子生徒たちは「サッカー」という球技を始めた。
ルールは単純。ボールを敵のゴールに叩き込むだけ。
(要するに、敵陣突破だな。容易い)
「おい慎也! パスだ、パス!」
試合開始早々、味方からボールが転がってきた。
キースラインの目の色が変わる。
(――見える!)
ボールの軌道、敵の配置、風向き。全てがスローモーションに見える。
歴戦の勘が、最適なルートを瞬時に弾き出した。
(右サイドから一気に駆け上がり、敵の守備を跳躍でかわし、必殺のシュートを叩き込む!)
イメージは完璧だ。
キースラインは地面を強く踏み込んだ。
「疾ッ――!」
ドサッ。
「……あ?」
地面を蹴った瞬間、足がもつれた。
前に進む推進力に対し、筋力が圧倒的に足りていないのだ。
上半身だけが前に飛び出し、下半身が置いていかれる。
結果、キースラインは豪快に顔面から地面にスライディングした。
「ぶべらっ!?」
「うわっ、慎也!? 大丈夫か!?」
「な、なにやってんだよ、あいつ……何もないところで転んだぞ」
砂まみれになりながら、キースラインは体を起こした。
息が切れている。たかだか数歩踏み込んだだけで、心臓が早鐘を打ち、太ももがプルプルと震えていた。
(な、なんだこの貧弱な足は……!? 藁でできているのか!?)
愕然とした。
イメージ通りに動こうとすると、筋肉が悲鳴を上げ、神経の伝達に体が追いつかない。
魔導車のエンジンを、木製の荷車に積んだようなものだ。アクセルを踏めば、車体がバラバラになる。
「はぁ、はぁ……貴様……この体は、呪われているのか……?」
「おいおい、大丈夫かよ? 保健室行くか?」
心配して駆け寄ってくるクラスメイトたち。
その同情の視線が、かつてない屈辱として突き刺さる。
「さ、触るな! 俺はまだやれる!」
キースラインは立ち上がろうとしたが、膝がガクッと折れた。
運動不足。基礎体力不足。
勇者の魂を持ってしても、物理的な筋肉量までは補正できなかったのだ。
「くそっ……! 動け、動けポンコツめ!」
自分の太ももを拳で殴りつけるキースライン。
「おい、自傷行為はやめろって! 先生ー、齋藤が壊れましたー!」
結局、キースラインは担架で運ばれることになった。
青空を見上げながら、元勇者は歯噛みした。
(まずは……筋トレだ。この世界を征服する前に、この鉛のような体をねじ伏せねばならん……!)
日本での戦いは、魔王討伐よりも地道で、過酷なものになりそうだった。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
今後のデータの参考にするため、よろしければ「ブックマーク」と、下にある【★★★★★】で評価を入力していただけると助かります。
皆さんの応援が、僕たちの生存確率を上げます。よろしくお願いします。




