第59話 生徒会主催・生体機能修復室(メンテナンス・ルーム)
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
文化祭当日。
校内が華やかな出し物で賑わう中、生徒会室の前にだけは、異様な長蛇の列ができていた。
看板には、花憐の手書きでこうある。
【生徒会主催:リラクゼーション・サロン『癒しの手』】
~勉強・部活で疲れた貴方に。ワンドリンク付き 15分 500円~
だが、部屋の中から聞こえてくるのは、癒しの音楽ではなく――。
「あだだだだだッ!! そ、そこ折れる! 折れます会長ぉぉッ!!」
「黙れ。脊椎の第4・第5関節が歪んでいる。これでは脳への血流が30%低下するぞ」
ゴキィッ!!
「ぎゃぁぁぁぁ――……あ、あれ?」
施術を受けていた野球部員が、キョトンとして立ち上がった。
「……軽い? 肩が……羽が生えたみたいに軽いぞ!?」
「次だ。入れ」
白衣を羽織り、眼鏡(伊達)をかけたキースラインが、無慈悲に手招きする。
彼の「マッサージ」は、慰安ではない。「修理」だ。
「失礼します……あの、最近腰が……」
次に入ってきたのは、吹奏楽部の女子生徒。
彼女は頬を染めて、少し期待した目でキースラインを見上げる。
(憧れの齋藤先輩に触ってもらえる……!)
「ふむ。チューバ担当か。左の腰方形筋に過度な緊張が見られる」
キースラインは彼女をベッドにうつ伏せにさせると、一切の躊躇なく、腰のツボに肘を突き立てた。
「ふぐぅッ!!?」
色気も何もない悲鳴が上がる。
「乳酸が結晶化しているな。粉砕する」
「ふ、ふんさい!? 痛い痛い痛い! 先輩、愛が重いですぅぅ!!」
「愛ではない。物理的な圧迫だ」
グリグリグリッ!!
15分後。
女子生徒は涙目になりながらも、背筋がピンと伸びて出てきた。
「す、すごい……! 息がしやすい! 音が無限に出せそうです!」
――その光景を、受付でお茶を淹れながら見守る花憐。
「……大盛況ね、齋藤くん」
彼女は複雑な顔をしていた。
生徒会の資金集めとしては大成功だ。だが、女子生徒たちが「痛かったけど気持ちよかった(ハート)」と言いながら帰っていくのが、少し面白くない。
「当然だ。我が校の兵士(生徒)たちのパフォーマンス低下は、組織全体の損失だからな」
キースラインは額の汗を拭い、次亜塩素酸水で手指を消毒した。
「だが、地球人の骨格は脆弱すぎる。少し力を入れただけで悲鳴を上げるとは」
「齋藤くんの『少し』は、一般人の『全力』なのよ……」
花憐がため息をつき、淹れたてのハーブティー(疲労回復ブレンド)を差し出す。
「はい、お疲れ様。少し休憩したら?」
「ああ、感謝する参謀」
キースラインはお茶を一気に飲み干すと、ふと花憐の肩を見た。
「……おい」
「え?」
「貴様も凝っているな。僧帽筋がカチカチだ。……受付業務で緊張していたか」
キースラインが背後に回り込む。
大きな手が、花憐の華奢な肩に乗せられた。
「あ……」
ドキン、と心臓が跳ねる。
他の生徒への「修理」とは違う、優しくて温かい、大きな手。
「じっとしていろ。……副会長が倒れては、私の指揮系統に支障が出る」
彼はそう言い訳をして、親指で優しく首筋を揉みほぐし始めた。
そこには、さっきまでの容赦なさはない。
労いと、慈しみが込められた、特別な指圧。
「……んっ……」
花憐の口から、甘い吐息が漏れる。
痛くない。ただただ、溶けるように気持ちいい。
(……ずるいなぁ、もう)
花憐はとろんとした目で、ガラスに映る二人の姿を見た。
外の行列からは「えーっ! 副会長だけズルイ!」「俺もあのコースがいい!」とブーイングが飛んでいるが、聞こえないふりをした。
生徒会主催「マッサージ喫茶」。
それは、生徒たちの悲鳴と、副会長の幸福な溜息で満たされた、伝説の企画となった。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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