第58話 敵前逃亡と、英雄の不在証明
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
国境の要塞都市バルカン。
そこに、魔王軍の将軍バルガス率いる重装甲部隊が襲来した。
「グハハハ! 出てこい勇者よ! 我が筋肉が貴様を求めているぞ!」
バルガスは身長3メートルを超える巨漢。全身を覆うミスリルの鎧は、生半可な魔法など通さない。
「へっ、デカいだけの的だぜ!」
城壁の上に立った新勇者レオンは、余裕の笑みで杖を構えた。
「俺の最強魔法で消し炭にしてやる! 『プロミネンス・バースト』!!」
ドォォォォン!!
極大の火球がバルガスに直撃する。
爆煙が晴れると……。
「……ぬるいな」
バルガスは無傷だった。鎧に少し煤がついただけだ。
「前の勇者の斬撃は、骨まで響いたぞ? ……貴様、偽物か?」
「な、なんだと……!?」
レオンの顔が引きつる。
最強の魔法が効かない。
バルガスが巨大な戦斧を振り上げた。
「退屈だ。死ね」
ブォン!!
衝撃波だけで城壁の一部が崩落する。
レオンは尻餅をつき、腰を抜かした。
「ひっ、ひぃぃ……!」
「おい勇者! 何をしている、戦え!」
守備隊長が叫ぶ。
「民を守るのが貴様の役目だろう!」
「う、うるせぇ!」
レオンは涙目で叫び返した。
「あんな化物に勝てるわけないだろ! 俺は勇者だぞ!? 世界の希望だぞ!? ここで死んだら誰が世界を救うんだよ!」
レオンは懐から「転移結晶」を取り出した。
高価な緊急脱出アイテムだ。自分一人しか運べない。
「ま、待て! 我々を見捨てるのか!?」
「知るか! お前らが時間稼ぎしろ! 俺は王都へ戻って作戦を立て直す!」
ヒュン!
光と共に、レオンの姿がかき消えた。
残されたのは、崩れた城壁と、迫りくる魔王軍、そして絶望した数千の兵士と市民だけだった。
「……逃げた……」
「勇者が……俺たちを置いて……」
絶望が伝染する。
バルガスがつまらなそうに鼻を鳴らした。
「なんだ、あれは。……興が削がれた。全員殺せ」
魔物の群れが城内に雪崩れ込む。
子供を抱いて逃げ惑う母親。剣を捨てて震える兵士。
誰もが死を覚悟したその時、彼らの脳裏に浮かんだのは、かつての英雄の姿だった。
(キースライン様なら……!)
(あの方は、どんな強敵からも絶対に逃げなかった!)
(口は悪かったが、背中は誰よりも頼もしかった!)
「キースライン様ぁぁぁ!!」
誰かが叫んだ。
それは祈りであり、悲痛な叫びだった。
死んだはずの英雄の名を呼ぶ声が、戦場に響き渡る。
――その声を、瓦礫の塔の上で聞いている者たちがいた。
「……聞きましたか、リーダー」
フードを被ったナイルが、静かに言った。
「あいつら、あんたの名前を呼んでるっスよ」
「……計算通りだ」
慎也は眼鏡を押し上げた。
その瞳は、逃げたレオンへの軽蔑と、眼下の敵への冷徹な殺意に彩られていた。
「民衆の絶望値、および教会への不信感、共にリミット(閾値)を超えた。……これより作戦フェーズを『潜伏』から『殲滅』へと移行する」
慎也はガルドを見た。
「ガルド。あの将軍の装甲、君の斧で割れるか?」
「へっ! 那須与一の扇より簡単だぜ!」
「エリス、広域防衛結界の展開を。ミナは負傷者の搬送ルート確保。ナイルは敵の後方攪乱だ」
「「「了解!」」」
「行くぞ。……『幽霊』たちの初陣だ」
黒いマントを翻し、5つの影が戦場へと舞い降りた。
伝説の再演が始まる。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




