第52話 国葬の地下、物理と技術の合奏(アンサンブル)
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
地上からは、重厚なパイプオルガンの音と、数千人の参列者による聖歌が響いてくる。
大聖堂で行われている、勇者キースラインの国葬だ。
「……あいつら、いい声で歌うじゃねぇか。俺たちの葬式だってのによ」
地下通路。ガルドが天井を見上げて皮肉っぽく笑う。
「静かに。……ここからは俺の独壇場っスよ」
先頭を進むのは、盗賊のナイル。
彼は通路に仕掛けられた「侵入者感知の魔法陣」や「毒矢のトラップ」を、次々と解除していく。
「……へへっ。前の俺なら見落としてたかもだけど、リーダー(慎也)の『観察眼』を真似てからは、空気の流れで罠が分かるようになったっス」
やがて一行は、最奥の巨大な鉄扉の前に辿り着いた。
枢機卿の隠し金庫だ。
扉には複雑な魔法陣と、物理的なダイヤル錠が何重にも施されている。
「……ここっス。俺が前にお手上げだったのは」
ナイルが悔しそうに扉を撫でた。
「魔力でロックされてる上に、内部のシリンダーが常に変化してる。……ピッキングじゃ追いつかないんスよ」
「なるほど。ランダム変動式の魔導錠か」
慎也は眼鏡を押し上げ、扉に耳を当てた。
「ナイル。君の指先の感覚は世界一だ。……だが、見えない内部構造を予測するのは困難だ。そこで僕が『目』になる」
「目?」
「ガルド、壁を叩いてくれ。……一定のリズムで」
慎也の指示で、ガルドがコンコン、と壁を叩く。
慎也はその反響音を聞き取り、脳内で扉の内部構造を3Dマッピングした。
「……見えた。変速ギアが3つ。右に45度、左に120度、そして奥のピンが魔力に反応して回転している」
慎也はナイルの耳元で囁いた。
「僕がタイミングを言う。君はその瞬間に、針を通す精度で解錠してくれ。……いけるか?」
「……へっ、愚問っスね」
ナイルはニヤリと笑い、愛用の解錠ツールを鍵穴に差し込んだ。
額に汗が滲む。
地上の聖歌がクライマックスに差し掛かり、音が大きくなる。
「――今だ、右45!」
カチッ。ナイルの手が動く。
「待て……まだだ……今! 左120!」
カチッ。
「最後だ。魔力パルスと同調しろ……ゼロ秒地点で、押し込め!」
カァァァァン!!
重い金属音が響き、巨大な鉄扉がゆっくりと開いた。
「……開いた……!」
ミナが息を呑む。
中には、山積みになった金貨の袋、宝石、そして棚に整然と並べられた「裏帳簿」と「契約書」の束があった。
「大漁っスね……!」
ナイルがガッツポーズをする。
「ナイル、見事な腕だ。……僕の計算(理論)も、君の指先(実装)がなければ机上の空論だった」
「リーダーこそ! まるで中が見えてるみたいで鳥肌が立ったっスよ!」
互いの健闘を称え合う二人。
慎也は指示を出した。
「さあ、仕事にかかりましょう。……すべて回収です」
ガルドとミナが袋に詰め込んでいく。
慎也は書類の束を確認し、冷ややかに笑った。
「……ほう。魔王軍への横流しリストに、孤児院への寄付金の着服記録か。……猊下、これは言い逃れできませんね」
数分後。
金庫の中は空っぽになった。
慎也たちは何も残さず、指紋一つ残さず撤収した。
***
数時間後。国葬を終え、涙を拭う演技をして執務室に戻った枢機卿は、念のため金庫を確認しに来た。
そして、絶叫した。
「な、な、な……無い!? 金が! 書類が!?」
金庫は無傷。鍵も閉まっていた。
なのに中身だけが消失している。
「だ、誰だ!? 魔王軍か!? それとも部下の裏切りか!?」
犯人の痕跡はゼロ。
「死んだ勇者」の仕業だとは夢にも思わない枢機卿は、見えない疑心暗鬼の闇に突き落とされ、その場で泡を吹いて倒れた。
完全犯罪。
勇者たちは幽霊となり、鮮やかに最初の復讐を遂げたのである。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




