第5話 ステータス・オープン
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
ギガントスの死骸から離れた荒野で、一行は野営を張ることになった。
焚き火を囲む空気は、お通夜のように重かった。
僧侶の少女・ミナは怯えたように縮こまり、盗賊の男はいつでも逃げ出せるよう靴紐を結び直している。
そんな中、慎也(中身は日本人)は、胸の高鳴りを抑えるのに必死だった。
(異世界……冒険……そしてキャンプ! これだよ、これ!)
彼は努めて冷静を装いながら、焚き火を見つめた。
これからやることは一つ。
異世界転生モノの基本中の基本。自分の能力確認だ。
(……出るかな。いや、出るはずだ)
慎也は周囲に聞こえないよう、小声で呟いた。
「――ステータス・オープン」
フォン、と軽い電子音と共に、目の前に半透明の青いウィンドウが浮かび上がった。
「うわっ、本当に出た!」
「ひっ!?」
慎也の歓声に、ミナがビクッと肩を跳ねさせたが、今の彼には目に入らなかった。
【名前】キースライン
【職業】勇者
【レベル】99(MAX)
【HP】9999 / 9999
【MP】9999 / 9999
【スキル】剣聖術、極大魔法、竜殺し、威圧、剛腕……
(す、すごい……! なんだこのチートスペック! 受験勉強で言えば、全教科偏差値100みたいなものじゃないか!)
慎也は興奮で眼鏡を上げる仕草をした(やはり眼鏡はない)。
これだけのMPがあれば、憧れの魔法も使えるはずだ。
慎也はチラリと、焚き火の薪を見た。火が弱くなっている。
(ちょうどいい。薪をくべるついでに、初級魔法を試してみよう)
彼は、優等生らしく教科書通り(ラノベ知識)の詠唱をイメージした。
指先を薪に向ける。イメージするのは、ライターの火のような、小さな炎。
「……《ファイア》」
ドォォォォン!!
瞬間、指先から紅蓮の奔流がほとばしった。
小さな炎ではない。火炎放射器――いや、ドラゴンのブレスだ。
凄まじい熱波が野営地を襲い、薪はおろか、焚き火を囲んでいた岩までもが真っ赤に溶けて蒸発した。
「うわあああああ!?」
「きゃああああ!」
「敵襲か!? いや、キースだぁぁぁ!」
仲間たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
慎也は慌てて手を引っ込めたが、時すでに遅し。焚き火の跡地には、直径数メートルのクレーターができあがり、溶岩のようにグツグツと煮えたぎっていた。
「あ、あわわ……すみません! 火をつけようとしただけで……!」
慎也が弁明しようと振り返ると、仲間たちは地面にひれ伏していた。土下座だ。
「お許しくださいキース様! 俺たちの働きが悪かったからですよね!?」
「焼き殺すのだけは勘弁してくださいぃぃ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい……!」
涙と鼻水を流して命乞いをする彼らを見て、慎也は立ち尽くした。
(ち、違う……僕がやりたかったのは、こんなことじゃ……!)
圧倒的な力。しかし、制御できなければそれはただの暴力だ。
かつてのキースラインは、この力を躊躇なく振るっていたのだろうか?
慎也は自分の手のひらを見つめた。
憧れの異世界生活は、どうやら「力のコントロール」という、受験勉強よりも遥かに難しい課題から始まることになりそうだ。
「あー……皆さん、とりあえず……カレーでも作りましょうか?」
「は、はいぃぃ!?」
恐怖で引きつる仲間たちに、慎也は困ったように笑いかけた。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




