第48話 原点回帰と、異界の御伽噺
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
フェンリルの教えに従い、風に乗って滑空すること数時間。
慎也たちは、見覚えのある平原に着陸した。
「……ここは」
目の前に広がるのは、のどかな田園風景と、懐かしい城壁。
旅の始まりの場所、王都の近郊だった。
「戻ってきたのか……! スタート地点によぉ!」
ガルドが地面にキスをして喜ぶ。
魔王の転移魔法は、彼らを最も遠い場所へ飛ばしたつもりだったのだろうが、皮肉にも風の道は彼らを「補給と準備に最適な場所」へと連れ戻してくれたのだ。
その夜。
王都に入らず、少し離れた丘の上で野営をすることになった。
焚き火のパチパチという音だけが響く静かな夜。
ガルドは高いびきをかいて寝ている。
慎也は膝を抱えて、満天の星空を見上げていた。
「……綺麗だな」
異世界の星空は、日本のそれとは星座が違う。
それを見て、ふと強烈なノスタルジーが胸に込み上げてきた。
「眠れないのですか? キースライン」
エリスが隣に座った。
「ええ……。少し、昔のことを思い出していて」
「昔……? 勇者様の、修業時代の話ですか?」
エリスが興味津々に首を傾げる。
慎也は苦笑した。この世界の「キースライン」の過去ではない。
もっと遠く、物理法則に支配された、魔法のない世界の記憶だ。
「……いいえ。これは、僕が見た『夢』の話です」
慎也は、静かに語り始めた。
「とても遠い、不思議な国の話です。……そこには魔法がありません。魔物もいません」
「魔法がない? ……じゃあ、どうやって明かりを灯すのですか?」
「『電気』という、雷の親戚のような力を使います。スイッチ一つで、夜でも真昼のように明るくなるんです」
慎也は、遠い目をして続けた。
「人は空を飛べませんが、鉄の鳥に乗って海を渡ります。馬はいませんが、鉄の箱が猛スピードで道を走ります。……そして何より、誰も剣を持っていません」
「剣を……持たない?」
エリスは信じられないという顔をした。
「魔物に襲われないのですか?」
「ええ。争いは話し合いや、法律というルールで解決されます。……子供たちは戦い方ではなく、歴史や計算を学ぶために『学校』へ通うんです」
慎也は、花憐との勉強会や、生徒会でのドタバタを思い浮かべた。
当時は「平凡で退屈」だと思っていた日常。
でも、命のやり取りがない世界が、どれほど恵まれていたか。
「そこでは、悩みといえば『テストの点数』や『好きな人にどう想いを伝えるか』……そんな小さなことばかり。でも、みんなそれが一番大切だと思って、必死に生きているんです」
エリスは、うっとりと聞き入っていた。
「……素敵なお話ですね。まるで、天国のようです」
「……そうかもしれませんね」
「その国の人は、きっと幸せなんでしょうね」
エリスが焚き火を見つめながら呟いた。
「戦わなくていい。誰も傷つかなくていい。……私もいつか、そんな世界を見てみたいです」
その横顔を見て、慎也は思った。
彼女のような優しい人が、戦場に立たなくていい世界。
それを作るために、自分はここに呼ばれたのかもしれない。
「……作れますよ、きっと」
慎也は薪をくべた。
「魔王を倒して、平和を取り戻せば……この世界も、きっとそんな風になれます」
「はい……! 一緒に、作りましょう」
エリスは慎也の方を向き、微笑んだ。
「貴方のその『空想のお話』が、いつか現実になるように」
空想なんかじゃない。
僕が帰るべき場所であり、君にいつか見せたい景色だ。
慎也は心の中でそう答え、言葉には出さずに微笑み返した。
遠い故郷の記憶は、ホームシックの種ではなく、未来への希望へと変わった。
始まりの地で決意を新たにした一行。
次こそは、本当の決着をつける旅になる。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




